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  • 物質循環学コースの岩田拓記准教授を含む研究グループが温暖化が永久凍土の森林へ与える影響についての研究結果を発表しました。

温暖化が永久凍土の森林へ与える影響は?
CO2 放出・吸収量の推移を 20 年間観測

2024年10月31日
【研究成果のポイント】
●アラスカの永久凍土※1の森林におけるCO2放出・吸収量を、2003年から20年間観測。

●後半10年間のCO2吸収量は、前半10年間と比較して約20%増加していた。
【概要】
アラスカやシベリアなど北半球の高緯度地域には永久凍土があり、その上には森林が広がっています。温暖化が進むと、永久凍土が解けて、中に含まれた大量の有機炭素※2がCO2として放出される可能性がある一方、永久凍土上の森林が成長し、CO2の吸収量が増加する可能性もあります。そのため、温暖化が永久凍土全体に与える影響を調べるためには、長期間の観測が必要です。
大阪公立大学大学院農学研究科の植山 雅仁准教授と、信州大学学術研究院(理学系)の岩田 拓記准教授、新潟大学大学院自然科学研究科の永野 博彦助教らの共同研究グループは、森林のCO2の放出・吸収量をリアルタイムで観測できる気象観測タワー(図1)を用いて、アラスカの森林における推移を2003年から20年間観測。分析の結果、2013年~2023年におけるCO2吸収量は、その前の10年間に比べて約20%増加しており、その主な要因は近年の降水量増加と、CO2濃度の上昇による光合成量の増加であることが明らかになりました。
本研究成果は、2024年10月25日に、国際学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences」のオンライン速報版に掲載されました。
【研究の背景】
北半球の高緯度には、永久凍土と呼ばれる凍った大地が広がっており、その上には北方林とよばれる森林やツンドラなどの生態系が成立しています。高緯度地域では、温暖化が地球全体の2~3倍の速度で進行し、また、それに伴うさまざまな環境変化が生じています。永久凍土には大量の有機炭素が蓄積されていますが、温暖化が凍土融解を引き起こすことで有機炭素が分解され、CO2やメタンなどの温室効果ガスとなって大気に放出されることが懸念されています。一方で、温暖化やCO2濃度の上昇は、寒冷地域の植物の生育を促進させて、CO2の吸収量を増加させる可能性もあります。温暖化の生態系への影響といった長期的な変化を評価するためには長期の実測データが必要不可欠ですが、過酷な環境下での長期モニタリングは容易でありません。そのため、温暖化やそれに関連した環境変化に対して、高緯度の生態系のCO2吸収機能がどう変化するかは、よく分かっていませんでした。
【研究の内容】
本研究グループでは、森林のCO2吸収・放出量を30分毎にリアルタイムで計測できる気象学的手法を用いて、アラスカの永久凍土上の森林のCO2交換量を2003年から長期観測しています。今回公表した永久凍土上の森林を対象とした20年に渡る長期観測データは、私たちが知る限り、凍土林に関する研究では世界最長の記録です。
20年の観測データから、近年10年間の森林のCO2吸収量は、その前の10年間の吸収量に比べて、約20%増加していることが明らかになりました(図2)。また、この主要因が近年の降水量の増加に伴う湿潤化と、大気CO2濃度の上昇による夏季の光合成の増加であることを突き止めました。
【期待される効果・今後の展開】
高緯度の森林のCO2吸収量が長期的に増加していること、また、その原因が大気の水循環や人為起源のCO2濃度上昇に関連していることが、長期観測で明らかになりました。今回の20年の観測の知見やデータを、温暖化がさらに進行する将来にそのまま適用することは難しいため、さらなる長期観測が必要ですが、温暖化予測モデルの検証や改良に役立つことで、温暖化予測の精度の向上が期待されます。
また、高緯度地域には多様な生態系が成立しており、一つの森林の結果を高緯度地域の生態系全体の知見として活用することはできないため、より多くの地点での調査を実施し、それらのデータを持ち寄った国際共同研究の推進が望まれます。

【資金情報】
本研究は、文部科学省 北極域研究加速プロジェクト(ArCSⅡ:Arctic Challenge for Sustainability Ⅱ:https://www.nipr.ac.jp/arcs2/)からの支援を受けて実施しました。

【用語解説】
※1 永久凍土…2年以上、連続して0℃以下の温度となっている地面。凍土地帯でも、夏季はその表層が融解するため、植物の生育が可能。
※2 有機炭素…植物は光合成によりCO2から有機炭素を作り出し、植物が落葉・枯死することで、その有機炭素は土壌で分解されてCO2に戻る。永久凍土地域は土壌が低温なため、植物遺体からなる有機炭素の分解が制限され、土壌に多く蓄積している。


【論文タイトルと著書等】
タイトル:Anomalous wet summers and rising atmospheric CO2 concentrations increase the CO2 sink in a poorly-drained forest on permafrost
著者:Ueyama, M., Iwata, H., Nagano, H., Kukuu, N., Harazono, Y.
掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences
URL:https://doi.org/10.1073/pnas.2414539121

【関連リンク】
温暖化が永久凍土の森林へ与える影響は? CO2放出・吸収量の推移を20年間観測(大阪公立大学)
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