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生物学コース東城幸治研究室の研究グループが,日本列島―朝鮮半島のコオイムシで系統的な距離と生殖的隔離の不一致を発見しました.

信州大学学術研究院 理学系(理学部 理学科 生物学コース)・東城幸治教授の研究室では,博士研究員の鈴木智也博士(現:京都大学 地球環境学堂・特定研究員)や谷野宏樹博士(現所属:基礎生物学研究所),東城研究室出身の関根一希博士(現:立正大学 地球環境科学部・助教, 元・韓国 高麗大学)らに加え,学外の共同研究者である長崎大学 教育学部の大庭伸也准教授,豊田ホタルの里ミュージアムの川野敬介氏,韓国国立生物資源研究所 所長および高麗大学の Bae Yeon Jae 教授らと共に,東アジア地域に広く生息する水生昆虫・コオイムシ Appasus japonicus を対象に,興味深い進化史の解明に取り組みました.
図1.コオイムシの成虫(右は卵塊を背負っているオス).
研究グループでは2014年に,ミトコンドリアDNAの分子系統解析結果に基づき,コオイムシが日本列島から大陸へ「逆分散 back dispersal」したことを示唆する成果を米国誌 Molecular Phylogenetics and Evolution に発表していました.当時は,核DNAの適当な遺伝マーカーの探索が困難で,ミトコンドリアDNAを中心とする解析成果の発表にとどまりましたが,本研究では次世代シーケンサーによるゲノムワイドな核DNAの解析に取り組み,核DNAの膨大な遺伝情報に基づく信頼性の高いデータが得られました.この結果,コオイムシは日本列島から大陸へと分布域を拡げたこと(すなわち「逆分散」)を強く支持するとともに,対馬海峡の成立(約300-133万年前頃)以降,日本列島と大陸の集団間の遺伝的交流が絶たれたことを究明しました.

また,当研究グループは,コオイムシのオスの交尾器形態が日本列島集団と大陸集団で異なることを英国誌 Biological Journal of the Linnean Society で2013年に発表しており,本研究では「交尾器が異なる日本列島集団と大陸集団間で交配が可能か?」について,交配実験によって確認しました.その結果,日本列島産のオスは大陸産のメスと交配できないのに対し,大陸産のオスは日本列島産のメスと交配ができるという不完全な交配隔離機構(= 種分化の途中段階)が確認されました.さらに,近縁種の交尾器形態との比較から,日本列島産コオイムシのオス交尾器形態が派生的であること(交尾器の特殊化は日本列島内で進化し,日本列島の2つの遺伝系統内に固定されたこと)も明らかになりました.したがって,①コオイムシは日本列島から大陸へ分布を拡大した後,祖先的な系統である日本列島集団で交尾器形態の進化が生じ,その結果,②日本列島集団と大陸集団の間で種分化が進行中であることが明らかとなりました.コオイムシの種内で祖先的な系統である日本列島集団で新たな形質が進化し,派生的である大陸集団では祖先的な形質が維持されているという点が極めて興味深いものと言えます.

本研究成果は,8月14日付で,Wileyが発行するMolecular Ecology に掲載されました.本研究は,日本学術振興会科研費(JP20687005, JP23657046, JP16K14807, 285211031, JP26891010, JP19K16209),公益財団法人河川財団による河川基金(27-1215-013),公益財団法人日本科学協会による笹川科学研究助成(26-529)の助成を受けて実施されました.
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