• HOME
  • 研究成果・受賞
  • 物質循環学コース岩田拓記准教授らの研究グループが、日本アルプスにおける水とCO₂のやり取りを7年間にわたって記録した研究成果を発表しました。

日本アルプスのハイマツと大気の間の水とCO₂のやり取りを7年間記録

2026年10月8日
信州大学の岩田拓記らの研究グループは,中央アルプスの標高2,662メートルにあるハイマツ群落で,2018~2024年の7年間にわたる観測データを整備し,公開しました.雪解けから冬に向かう季節の変化に応じて,水やCO₂のやり取りがどう変わるかを捉えた記録です.観測例の少ない高山の環境を知り,気候変動の影響を調べるための基礎資料になります.

高山の植物は大気とどう関わるのか
日本アルプスでは,高い木が育ちにくくなる標高より上に,背の低い針葉樹のハイマツが広がっています.植物は光合成でCO₂を取り込み,植物や土壌の呼吸はCO₂を放出します.また,地表や植物から水が蒸発すると,熱も大気へ運ばれます.こうしたやり取りを測ることは,高山の生態系が水や炭素の循環に果たす役割を理解するうえで欠かせません.しかし,雪や厳しい気象条件,機材の運搬の難しさから,長期間の観測は限られていました.

風の動きから水やCO₂の出入りを測る
観測場所は,中央アルプスの将棊頭付近にある斜面です.風の上下の動きと,水蒸気やCO₂の濃度を毎秒10回測り,それらの関係から群落と大気の間を行き来する量を求めました.この方法を「渦相関法」といいます.日射,気温,土壌の水分なども記録しました.観測できなかった期間は,得られたデータの関係を学習する機械学習で補い,実測値と推定値を区別して公開しています.

雪解けとともに変わるCO₂と水のやり取り
CO₂の吸収は雪解け後に始まり,昼間の吸収と夜間などの放出を差し引いた1日あたりの正味の吸収は,平均的には6月に最大となりました.一方,昼間の吸収が最も大きかったのは8月です.夏は呼吸によるCO₂の放出も増えるため,昼間によく吸収する時期と,1日全体で最も多く吸収する時期が異なることが示されました.
水が蒸発する際に大気へ運ばれる熱は,雪解け後に増え,8月に昼間のピークが最大となりました.春は空気を直接温める熱の移動が優勢でしたが,真夏には水の蒸発に伴う熱の移動が同程度になりました.斜面での観測についても,風の乱れや熱収支を調べ,データの品質を確認しました.

気候変動の影響を調べるための公開データ
公開データには,30分ごと・1日ごとの記録に加え,品質や推定の不確実さに関する情報が含まれています.今後,雪解けの時期や気温の違いが高山の水・炭素循環に与える影響の解析や,生態系を再現する計算モデル,衛星観測からの推定の検証に役立つと期待されます.冬から春には長い欠測期間があり,冬のCO₂測定には機器の影響も考えられるため,年間の収支や年ごとの違いは慎重に評価する必要があります.

論文情報
著者:Hiroki Iwata, Ryo Sato, Naoki Makita, Hajime Kobayashi, Hiroyuki Oguma
論文名:A 7-Year Eddy Covariance Dataset of the Energy, Water Vapour and Carbon Dioxide Fluxes Observed in a Siberian Dwarf Pine Ecosystem
掲載誌:Geoscience Data Journal, 13, e70101(2026年)
論文:https://doi.org/10.1002/gdj3.70101
公開データ:https://doi.org/10.5281/zenodo.21995728
MENU