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生物学コース 東城幸治教授らの研究グループが、洪水(2019年台風19号)における水生昆虫の抵抗力と回復力評価を行いました。

2023年4月19日
【研究成果のポイント】
  • 2019 年に東日本を襲撃した台風19号は、千曲川(信濃川)水系では20-21世紀の観測 史上最大の河川洪水を引き起こし、甚大な被害をもたらした。
  • この洪水は、人間生活だけでなく、河川生物にとっても重大な影響を与えたと予想され、その影響評価と回復プロセス究明を目的に本研究が取り組まれた。
  • 千曲川(信濃川)流域の広域を対象に、洪水前に精度の高い定量的調査や膨大な解析数からなる遺伝子解析を実施していた水生昆虫を対象に、洪水後にも同一の手法で調査が実施された。予測が不可能な大規模洪水に対し、洪水前の精緻なデータが取得されており、Before-After 比較が実施されたこと自体が世界的にも稀なケースである。
  • 欧米を中心とした既往の研究によると、世紀レベル(100 年に1 度程度)の大規模洪 水では、水生昆虫群集は大きなダメージを受け、その回復には複数年から十年を超えるような長い時間を要するとされてきた。
  • しかしながら、千曲川(信濃川)中流域に優占する水生昆虫種では、洪水から1 年後には洪水前と変わらないレベルでの個体群構造(密度・バイオマス)、遺伝的多様性であることが明らかとなった。
  • 本研究で実施された遺伝子解析のサンプルサイズで(洪水前330個体、洪水後350個体)、大規模洪水の前後における遺伝的多様性を比較・評価するような試みは、世界的にも類のない取組である。さらに、大規模洪水前後での遺伝的多様性に差異がみられないことに加えて、遺伝的多様性そのものの高い値についても、驚くべき結果であった。
  • このような結果は、アジアモンスーン地域ゆえの豊富な水環境や急流河川の多い日本列島の地史や地理・地形に因るものと考えられる。すなわち、頻繁に洪水撹乱を経験してきた歴史のなかで自然選択されてきた(進化してきた)日本の水生昆虫が有する「洪水に対する抵抗性(レジスタンス)と回復力(レジリエンス)」を示すものである。
(右上図:2019年10月12-13日に東日本を襲撃した台風19号による洪水被害。写真はいずれも国土交通省北陸地方整備局(千曲川河川事務所)より提供。右下図:各調査地点における洪水前後でのチラカゲロウの遺伝的多様性の変遷。円グラフの配色は遺伝子型に対応しており、カラフルな地点ほど遺伝的多様性が高いことを示している)
【論文タイトルと著者等】
タイトル:A major flood caused by a typhoon did not affect the population genetic structure of a river
mayfly metapopulation
著者: Tomoya SUZUKI, Koki YANO, Seiya OKAMOTO, Gaku UEKI, Ayako FUKAKUSA, Maki
IKEDA, Gaku INOUE, Haruno TAGASHIRA, Takumi YOSHIDA and Koji TOJO
掲載誌:Proceedings of the Royal Society B, 290: 20230177(英国王立協会紀要B, 生物学)
掲載日:2023 年4 月19 日午前8 時(英国時間:4 月19 日午前0 時)
U R L:https://doi.org/10.1098/rspb.2023.0177
D O I:10.1098/rspb.2023.0177

鈴木智也(信州大学)現・京都大学 博士研究員
谷野宏樹(信州大学)現・日本学術振興会・特別研究員(JSPS PD)基礎生物学研究所
岡本聖矢(信州大学)現・国土交通省土木研究所 自然共生研究センター・博士研究員
上木 岳(信州大学)現・東京大学 博士研究員
深草彩子・池田真来・井上 岳・田頭春乃・吉田 匠(信州大学)現・大学院生
東城幸治(信州大学)責任著者


プレスリリース(2023年4月17日)
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