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化学コース飯山拓教授、横山赳さん(D3)らの研究グループがナノ空間中の分子混合に関する研究成果を発表しました。

2026年9月14日
【発表のポイント】
・吸着等温線測定を応用し、ナノ空間内で溶質の量を一定に保ちながら、水の量を連続的に変化させる「ナノ溶液」の新たな調製方法を提案しました。
・通常の水にはほとんど溶けない疎水性有機物のジベンジルが、ナノ空間では水に囲まれながら高い分子運動性を保つ「擬溶解状態」を形成することを示しました。
・液体状態¹H NMR、X線回折および示差走査熱量測定を組み合わせ、従来の代表的な分類にはない二段階の水吸着と、それに伴うジベンジルの析出・再吸着を明らかにしました。

【概要】
 理学部理学科化学コースの飯山拓教授と二村竜佑准教授、信州大学大学院総合医理工学研究科の横山赳大学院生、大阪大学大学院理学研究科の上田貴洋教授からなる研究グループは、通常の水にはほとんど溶けない疎水性有機物のジベンジルが、直径約3.8ナノメートルのシリカのナノ空間では、水に囲まれながら高い分子運動性を保つことを明らかにしました。さらに、水の量に応じてジベンジルがナノ空間内から析出し、その後、再びナノ空間内に取り込まれる特徴的な挙動を見いだしました。

 物質を数ナノメートルの狭い空間に閉じ込めると、壁面との相互作用や空間的な制約により、融点、分子の並び方、運動性などが、通常の大きな空間に存在する場合とは異なることが知られています。こうしたナノ空間を多数もつ多孔性材料は、化学反応、物質分離、水処理、蓄電デバイス、薬物送達など、さまざまな分野で利用されています。一方、ナノ空間内に複数種類の分子が存在する場合、その混ざり方は通常の液体と同じ、または理想的に混ざるものとして扱われることが多く、「ナノ溶液」の溶解性や分子運動は十分に理解されていません。特に、ナノ空間に閉じ込められた水は、融点や水分子の集合状態、運動性が通常の水とは異なることから、水と水になじみにくい有機物との混合状態にも、ナノ空間特有の現象が現れると考えられます。

 本研究では、直径約3.8ナノメートルの均一な円筒状細孔をもつメソポーラスシリカMCM-41に、ジベンジルをあらかじめ導入し、水蒸気の圧力を変えながら水を少しずつ吸着させました。この方法では、溶質であるジベンジルの量を一定にしたまま、溶媒である水の量だけを連続的に変化させることができます。その結果、水吸着等温線にIUPACによって規定された分類に含まれない、二段階の増加が現れました。第一段階では、ジベンジルが占めていない細孔部分を水が満たしました。
細孔が水とジベンジルで満たされ、水/ジベンジルのモル比が約11となった状態でも、液体状態¹H NMRのピーク強度、ピーク位置および緩和時間を総合的に解析することで、ジベンジルの近くに水分子が存在し、ジベンジルが高い分子運動性を保っていることが分かりました。通常の水へのジベンジルの溶解度は7.0 × 10⁻² mmol L⁻¹未満ですが、ナノ空間内では擬溶解状態を形成していると考えられます。さらに第二段階では、水が細孔内のジベンジルと置き換わり、ジベンジルが細孔外で結晶として析出することを、X線回折および示差走査熱量測定によって確認しました。
 本成果は、ナノ空間では、通常の溶液とは異なる混合・析出挙動が現れ、水蒸気圧によって分子の存在場所と状態を可逆的に変化させられることを示しました。水蒸気圧を下げると、細孔外に析出したジベンジルが再び細孔内に取り込まれ、ナノ混合物が再形成されます。このようなナノ溶液は新しい化学反応場や、分子の分離・貯蔵、水処理、薬物送達などの設計につながる基礎的な知見になると期待されます。
 
 本研究成果は、英国王立化学会(Royal Society of Chemistry)が刊行する国際学術誌『Physical Chemistry Chemical Physics』に、2026年8月7日付で受理されました。また、本研究のカバーアートは、同誌の「Inside Front Cover」に選出されました。

【用語解説】
多孔性材料: 内部に非常に小さな孔を多数もつ材料です。内部の表面積が大きく、気体や液体の分子を取り込めるため、吸着、分離、触媒、薬物輸送などに利用されています。
MCM-41: 均一な円筒状のナノ細孔を規則的にもつシリカ材料です。本研究では、ジベンジルと水を閉じ込める「ナノ容器」として使用しました。
吸着等温線: 一定の温度において、気体の圧力と、固体に取り込まれた分子の量との関係を示した曲線です。本研究では、水蒸気圧を変えることで、細孔内に取り込まれる水の量を段階的に調節しました。

【論文情報】
タイトル
“Formation of nano-mixture comprising hydrophobic solute and water: determination of their anomalous precipitation and pseudo-dissolution behaviours by adsorption isotherm measurements”
著者
Takeru Yokoyama, Takahiro Ueda, Ryusuke Futamura and Taku Iiyama
掲載誌
Phys. Chem. Chem. Phys., 2026. DOI:10.1039/d6cp00789a
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