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一握りの土の中にも無限の世界

一握りの土の中にも無限の世界

土は皆さんに見慣れたものかもしれませんが、すごく複雑で奥行きが深く、研究しようとするとなかなか扱いにくい代物です。ここでは、そんな土の世界を皆さんに簡単に紹介します。身近だけど、あまり深くつきあってこなかったであろう土に、少しでも興味を持ってもらえればと思います。

(生物的な複雑さ)
例えば、たった1gの土の中に細菌がどのくらいいるか想像できますか。実は10億以上います。細菌以外にも、カビの仲間や、アメーバなどの原生動物、ミミズなどの土壌動物など、たくさんの生物がいます。それから、その土に植物も生えています。これらたくさんの種類の生物が複雑に相互作用しながら、土を基盤にして生活しています。

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土の中から、生物がいなくなったらどうなると思いますか。当然、植物の葉や、人や動物の出した排泄物もみんな分解されずに残ってしまいます。こういった有機物を微生物が分解することで、炭素や窒素、リンといった、全ての生物にとって必要な元素が循環し、微生物だけでなく他の生物にも利用できるようになります。



(物理的な複雑さ)
土を大きく拡大して見てみると、小さな粘土粒子や有機物がくっついて、粒をつくっています。この粒がさらにくっついて、また塊をつくっています。これを、団粒構造とよんでいます。団粒構造の中には、大きなスペースもあるし、とても小さなスペースもあります。団粒構造は、水分の保持や、微生物の住みかとして、とても重要です。

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上の図は、団粒構造を単純化して描いたものです。細菌は小さいので、団粒内部の小さなスペースに棲むことができます。乾燥に強い菌が表面近くに多く、乾燥に弱い菌は湿っている内部に多くいます。細菌を食べる原生動物は、体が大きくて団粒内部に入ることができなく、団粒の外側をうろうろしています。このように、団粒構造のおかげで、いろいろな微生物が土の中に棲むことができます。



(化学的な複雑さ)
土の中でおこる化学反応はたくさんあります。ここでは、例えば酸性物質が降水に溶けて土に入ってきた場合を考えてみます。このとき、土のpHはどうなると思いますか。pHについて知っている人なら、土が酸性になるからpHは下がる、と考えるかもしれません。ところが、実際には、土のpHは思ったほど下がりません。これを、少し難しい言葉ですが、「土壌の緩衝能」とよんでいます。この時に何がおこっているかというと、例えば、

\[CaAl_2Si_2O_8 + 2H^{+} + H_2O → Ca^{2+} + Al_2Si_2O_5(OH)_4\]

という反応がおこることで、酸性の原因となるH+が土の中でなくなってしまいます。

土の色って何の色?
皆さんは、家の周りの土の色が何色か思い浮かびますか。土にはいろいろな色があり、それは土の成分を反映しています。例えば、色が黒い土は、有機物が多い土です。赤や黄色は鉄酸化物の色、白は砂や粘土鉱物の色です。水田や水はけの悪い低地の土を見たことがある人は、灰色だった記憶があるかもしれません。それは、水につかることで、鉄が溶けて流れ出てしまったからです。でももっと水はけが悪くてずっと水につかっている低地では、溶けてできた二価鉄が流れ出ないので、二価鉄の色がついて少し青緑色になることもあります。黒い土は、昔、火山灰が積もったところで多く見られ、黄色い土は西日本、赤い土は沖縄県でよく見られます(もちろん、場所によって違いますが)。今度、そういう目で土の色をよく観察してみると、面白いかもしれません。

國頭 恭