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高橋 耕一

高橋 耕一

生物学コース

講座:植物生態学分野
略歴:
1996年 北海道大学大学院地球環境科学研究科博士後期課程修了
1997年 北海道大学低温科学研究所 講師(中核的研究機関研究員)
2000年 日本学術振興会 海外特別研究員 (Finnish Forest Research Institute)
2000年 信州大学理学部 助手
2003年 より現職
2005年 カナダ McGill大学 訪問教授
2006年 信州大学 山岳科学総合研究所 兼務
2014年 信州大学 山岳科学研究所 併任
キーワード:外来植物
ホームページ:http://science.shinshu-u.ac.jp/~bios/Evo/takahashi/ktmain.html
SOARリンク:SOARを見る

植物群集の将来を予測する

研究紹介

1.森林生態系における多種共存機構
森林は多くの植物種から成り立っています.しかし,複数の種がなぜ同じ場所で共存していられるのでしょうか? 「共存」していることは当たり前と思われるかもしれませんが,実は不思議なことなのです.単純に考えれば,競争に一番強い種が他種を排除してもいいからです.森林は非常にゆっくりとしたペースで世代交代が行われていきます.種ごとにどのように世代交代しているのか,種間競争や環境条件はどのように世代交代に影響しているのか,という点から種多様性維持機構を調べています.私は緯度傾度では熱帯雨林から亜寒帯林まで,そして標高傾度では低地林から高山植物まで,さまざまな植物生態系を対象に調査してきました.また,植物種によってどのように成長戦略が異なるのかなども研究しています.

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特異な景観を示す縞枯林(北八ヶ岳)。斜面下部から上部へ向けて、 次々と枯れていく。

2.外来植物の生態系への影響評価
ヒトやモノの移動にともない,多くの生物種が本来の生息地から離れた場所に分布するようになりました.驚くことに,日本の植物の約1/4は外来種です.それぞれの生態系は多くの種から構成されていますが,それは長い時間をかけて種間関係が成立してきました.そのため,外来種の侵入はその場所の固有の生態系に大きなインパクトを与えると考えられています.そこで,外来植物の生態系の構造や機能への影響などを調べています.現在,ビロードモウズイカという地中海地方原産の草本植物について調査していますが,人為的に攪乱された場所に特異的に分布しています.侵入した外来植物の成功要因を個体群動態や生理生態学の観点から調査しています.

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地中海地方原産のビロードモウズイカ。ビロード状の大きな葉をつ けるので、よく目立つ植物である。

3.地球温暖化の植生分布への影響評価
地球温暖化は植生分布にどのような影響をもたらすのでしょうか? 標高が上がるにしたがい気温は低下し,植生が変化します.例えば,中部山岳地域では植生は落葉広葉樹林から針葉樹林,そしてハイマツ林へと変化します.このような植生の変化は温度条件と関係していることは疑いがありません.では,地球温暖化は標高傾度にそった現在の植生分布をさらに上の標高まで押し上げるのでしょうか? 森林限界付近では冬季の風雪,強風のため,夏の気温が成長には十分でも正常には樹木は成長しません(下写真).そのため,温暖化によって森林限界が上昇するとは単純には考えられません.また,植生分布は緯度傾度にそっても変化します.特に,長野県の南部は照葉樹の分布北限になっています.現在,個体群動態,年輪年代,生理生態など,さまざまな観点から調べており,将来予測したいと考えています.

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森林限界より上の標高では、樹木は冬季の凄まじい風雪によってダメ ージを受ける。雪の下には匍匐性のハイマツがあり、積雪の保護があるためダメージを受けることはない。

4.里山における生物多様性の喪失に関する研究

従来,人間が生活のために利用してきた身近な山を里山と言います.里山は人為的に維持管理されることで,生物多様性が高いといわれています.しかし,ライフスタイルの変化とともに里山が利用されなくなり,放棄されてきています.今後,どのように里山が推移していくのかを調べています.

高校生へのメッセージ

1.高校の教科書の中での私の分野の位置づけ
高校の教科書の中では,私の分野は「生物群集」がもっとも近いでしょう.ただし教科書の中ではおもに遷移が扱われていますが,遷移は生物群集の研究の中の一分野に過ぎません.また,生態学は「生物と環境の関係を調べる」非常に広い分野ですので,周辺領域の知識も必要になります.

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森林限界において、ダケカンバの蒸散速度を測定している様子。

2.研究室での学生の研究テーマ
私の研究室では,基本的には私の現在の研究テーマに関することを卒業論文等のテーマとしてだしています.ただし,学生さんの方でやりたい研究テーマがあれば,希望にできるだけ添うように応じています.また,多くの場合,野外でデータを取るフィールドワークが中心となります.もちろんテーマによっては,フィールドで採取したサンプルを実験室で分析することもあります. 「現在の研究テーマ」で書いたように,自然生態系は外来種や温暖化などの人為的な影響を強く受け,変化しつつあります.また,逆に里山のように今まで人によって維持管理されてきた林が放棄されることで,生物多様性が失われているところもあります.私はどのように生態系が変化していくのかを調べていきたいと思っています.また,多種共存機構に関する研究も,現在の優占樹種が将来も優占していくのかどうか,そのメカニズムを検討するものです.そのような意味もあって,表題を「植物群集の将来を予測する」としました.

3.最後に
野外調査を中心とした生態学の場合,自然生態系がどれだけ身近にあるかが重要になります.とくに森林を調査対象にする場合は,大面積での自然林が必要です.また多様な生態系があることで,さまざまな研究テーマが生まれます.その点では,信州は本州の中ではかなり恵まれた立地だと思います.野外に出るのが好きな人,自然が好きな人をお待ちしております.