受験生向け研究紹介

川出 健太郎

理学科 物理学コース 高エネルギー物理学分野

宇宙の始まりを素粒子実験で解明しよう

物質(モノ)を構成する最小の要素を素粒子と呼びます。 古代ギリシャではモノは「空気、土、水、火」からできていると考えたようですが、
現在ではモノはクォークとレプトンを最小要素として構成されており、これらの粒子が素粒子だと考えられています。 この描像を「素粒子の標準理論」とよび、下の図が標準理論を構成する粒子の図鑑です。
物質を構成する素粒子をフェルミオンと呼び、力の媒介を担うのがゲージボソンです。
ヒッグスボソンは真空を満たし、素粒子と相互作用をすることで素粒子に質量を与える特別な粒子です。 ヒッグスボソンは長年未発見でしたが、後述するLHC実験で2012年にその存在が確認されました。 これらの素粒子の性質を理解し、その相互作用を解き明かすことが素粒子物理学の研究目的です。
超巨大加速器LHCで迫る宇宙誕生
現在の宇宙は宇宙誕生から138億年かけて冷えてきた姿で、過去の宇宙はとっても熱い、高エネルギーの状態でした。
そこは素粒子の世界だったと考えています。
そのような宇宙初期の素粒子は、人工的に高温状態を作り出してしまえば詳しく研究することができます。
そのカギとなるのが、加速器という実験装置になります。

人工的に宇宙誕生から10-12秒後の高温状態を作り出し、素粒子のふるまいを理解するための装置が、スイス・ジュネーブの郊外にあります。
それがLarge Hadron Collider(LHC、大型陽子衝突型加速器)です。 LHCは周長27kmを持つ世界最大かつ最強の加速器で、陽子を光速の99.999999%まで加速することができます。 それらを衝突させることで、宇宙誕生から10-12秒後の状態を再現するのです。

また、このようにして作った素粒子はすぐに多数の粒子に崩壊してしまうので、 それらをきちんととらえるには、高精度の測定装置が必要です。 その一つが、アトラス検出器です。
アトラス検出器は全長43m・高さ22mの円柱形の検出器で、下図のような構造をしています。
アトラス実験には、世界中から3000人の研究者があつまり、総力で研究を行っています。 信州大学高エネルギー研究室もそのメンバーです。

私は、アトラス検出器の中でもミュー粒子トリガー検出器の運用に長年携わってきました。

トリガーとは何でしょうか?

実はLHCでは興味のある物理事象が生成する確率はとても低いのです。 ゴミの山から宝探しをするようなものですが、それを効率的に進めるのがトリガーです。 LHCでは、様々な制約からすべての衝突事象を記録しておくことができません。 そのため特別に設計された電子回路を用いたトリガーを通った事象を、さらに数千台のコンピューターからなるコンピューターファームで迅速に選別して保存するデータを選び出します。

このようなトリガーはLHCでの研究には必要不可欠なものですが、各国の大学院生が多く活躍しています。
あなたも大規模国際共同実験で活躍してみません?
標準理論の精密検証とそれを超える物理の探索
私は、標準理論では最も重たいトップクォークに着目して、 標準理論はどこまで正しいのか?標準理論を越えた物理現象の探索を行っています。 この図は、素粒子の質量をグラフ化したものです。 トップクォークはとびぬけて重いクォーク(フェルミオン)で、ヒッグスボソンやゲージボソンなどのボソンよりも重たいのです。 なぜこれほど重いのかは謎で、素粒子の質量獲得と密接にかかわっていると考えられています。 また未知の重たい素粒子が存在した場合、トップクォークとの強い結合が示唆されるためトップクォークを詳細に調べることで 未知の素粒子を発見できるかもしれません。
MENU