Pick up! 研究紹介:山田昌樹

Pick up! 研究紹介動画 ~この場所でいつ地震が起きたのだろうか?地震と津波の履歴を明らかにする~

研究テーマ:別府湾の過去数千年間の地震と津波の履歴を明らかにする

Q1. 研究の目的を教えて下さい。
この研究では,大分県の別府湾の海底活断層で過去数千年間に発生した地震と津波の履歴を明らかにすることを目的として,沿岸地域において津波堆積物の掘削調査を行っています。別府湾の海底活断層では,1596年に慶長豊後地震と呼ばれる活断層型の地震が発生して,それに伴う津波によって,死者700名もの被害があったことが歴史記録から分かっています。私は,それ以前の歴史記録がない時代にも同様の津波が起きていたのではないかと考えて,地質調査によってその履歴を解明することを目指しています。
Q2. 具体的な研究内容の詳細を教えて下さい。
具体的には,沿岸の低地や湿地に残された津波堆積物を掘削調査によって見つけ出すことで,いつ,どれくらいの規模の津波が発生したのかを明らかにすることを目指しています。掘削を行ったのは湿地の環境なので,通常時は泥の堆積物がゆっくりとたまっています.そこに津波が襲来すると,沿岸やビーチの砂が湿地に運ばれて砂層が形成されます。それが津波堆積物です.見た目だけで津波堆積物だと分かるわけではないので,このコア試料に対して,化学分析や微化石分析を行って,この砂層が海から運ばれてきたのかどうかを調べていきます。それが終わったら,放射性炭素年代測定法という年代測定手法を用いて,この砂層が堆積した年代,つまり地震・津波の発生年代を決定していきます。まだ誤差の大きいところもありますが,1596年慶長豊後地震以前にも,別府湾では繰り返し津波が発生していたことを初めて明らかにしました。
Q3. 世界の研究と比べて,この研究の特徴は何ですか?
巨大津波は,海洋プレートと大陸プレートの境界,いわゆる沈み込み帯で発生することがほとんどです。日本で言うと日本海溝や南海トラフ,海外ですとアメリカやチリの西海岸,インド洋地域などがこれにあたります。一方,この研究で対象としている別府湾は,プレートの沈み込み帯ではなく,プレートの内部に存在する活断層が動くことによって起こる津波です。世界でも似たような地域は多くありますが,この活断層型の地震が常に津波を発生させるのかどうか,またその間隔に周期性があるのかないのかなど,研究事例が少なくよく分かっていません。この研究で対象としている別府湾では,先ほどお話したように,1596年に巨大津波が発生しており,その具体的な内容が歴史記録に記載されています。これは世界でも極めて稀なケースです。それに加えて,本研究のような津波堆積物の記録から活断層型地震・津波の特徴を解明することで,プレート内部の海底活断層で発生する地震・津波に対するリスク評価につながる研究成果になると考えています。
Q3. 最後に,本研究の今後の見通しと,将来の目標を教えて下さい。
2011年の東北地方太平洋沖地震津波以降,地質記録に基づいて地震・津波の履歴を解明することの社会的な重要性が高まっています。先ほど紹介したのは,別府湾での津波堆積物研究の事例ですが,私たちのグループでは,他の地域でも津波堆積物研究を進めています。今,特に興味を持っているのは,九州地方東方沖の日向灘地域です。日向灘地域は,南海トラフから続くプレートの沈み込み帯です。ここでは,マグニチュード7クラスの地震が繰り返し発生しており,歴史記録を見ると,宮崎平野などで大きな津波の浸水被害が生じた事例もあります。しかしながら,歴史記録上では,マグニチュード8を超えるような巨大地震は発生しておらず,また,津波堆積物の調査・研究もあまり進んでいないため,数百年〜1000年というスケールで発生する低頻度巨大地震の発生ポテンシャルを議論できるに至っていません。私は,今後も日向灘沿岸地域での津波堆積物調査を継続して行い,日向灘地域で過去の巨大地震が起きていたのかどうか,また,近年想定されている南海トラフから日向灘までが連動するマグニチュード9クラスの超巨大地震の発生可能性を検証していきたいと考えています。将来の目標というほどでもないですが,これからの研究成果で1つでも多くの地震・津波履歴を解明して,津波リスク評価に貢献していければ良いと思っています。

研究室の学生の研究テーマを訊いてみましょう

金子 稜 (地球学コース,4年生)

Q1. 研究テーマを教えて下さい。
私は,奄美群島近海で発生しうる津波の数値シミュレーションを行っています。
Q2. その研究テーマの具体的な研究内容を教えて下さい。
奄美群島近海では地震に伴って津波が繰り返し発生していた可能性があるのですが,研究例が少ないのが現状です。私の卒業研究では,奄美群島近海で発生する津波を想定した数値シミュレーションを繰り返し行い,どれくらいの規模の地震が起これば奄美群島に津波が到達し,浸水するのかについて検証しています。このデータは,今後,奄美群島の沿岸地域で津波堆積物調査をする上で役に立つと考えています。
Q3. それは今何の作業をしているのですか?
これは,津波の数値計算をしているところです.断層の条件を入力して計算を走らせます。奄美群島における津波の到達時間や津波の高さ,浸水範囲を出力させることができます。計算には時間がかかるので,既に計算が終わっているデータをお見せします。これはプレート境界型地震を想定した津波シミュレーション結果です。津波が伝播し始めて広がっていく様子が見て取れます。初期条件を変えた数値計算を繰り返し行い,奄美群島の隆起や沈降の条件と組み合わせることで,何が原因で,どれくらいの規模の津波が発生したのかを解明することを目指しています。
加藤 汰一 (総合理工学専攻 理科学分野,地球学ユニット,大学院生)

Q1. 研究テーマを教えてください
画像解析という手法を用いて,洪水堆積物を構成する砂や石ころの形状解析を行い,それらがどこから運ばれてきたのかを解明することを修士研究のテーマとしています。堆積物の供給源が分かると,洪水の氾濫パターンや堆積物の形成過程を明らかにすることができます。
Q2. その研究テーマの具体的な研究内容を教えてください
私は卒業研究で,2019年に長野県の千曲川で発生した堤防決壊による洪水堆積物の研究を行いました。決壊した堤防の周辺には,大量の土砂や石ころが堆積していました。これらの石ころは全て洪水で運ばれてきたものです。私は今,これらの石ころがどこから運ばれてきたのか,具体的に言いますと,河床なのかあるいは堤防の中を埋めていた石ころなのか,を明らかにすることで,どのように堤防が決壊して,洪水流が流れ込んできたのかを解明することを目指しています。
Q3. それは今何の作業をしているのですか?
今は,千曲川の河床から採ってきた石ころを並べて,写真を撮っているところです。この画像データを用いて,専用のソフトで石ころの形状解析を行っていきます。石ころはその環境によって丸みの帯び具合が異なります。これを円磨度や球形度と言います。この形状解析では,それらの指標を定量的に算出することができます。洪水堆積物に含まれる石ころと,河床や堤防内部の石ころの解析結果を比較することで,洪水堆積物の供給源を明らかにすることができます。
斉藤 央岳 (理学科 地球学コース,4年生)

Q1. 研究テーマを教えてください
石垣島の沿岸域に分布する巨大なサンゴの岩石を調査して,分析をすることで,これらの岩石が,津波によって動いたものなのかどうか,そしてそれがいつだったのかを明らかにすることを卒業研究のテーマとして取り組んでいます。
Q2. その研究テーマの具体的な研究内容を教えてください
石垣島には,サンゴ礁が発達しています。巨大な津波が襲来すると,サンゴ礁の端(リーフエッジ)のサンゴ礁が破壊され,巨大な岩石としてサンゴ礁内へと運ばれます。これらを「津波石」と呼びます。野外調査で津波石の分布を調べて,採取した試料に対して古地磁気分析や年代測定をすることによって,これらの津波石がいつ運ばれたのか,つまりいつ津波が起きたのかを解明することができます。

Q3. 古地磁気分析とはどのような手法ですか?
地球には磁場があり,岩石中に含まれる微小な磁石には,当時の地球の磁場の方向が記録されています。移動していない岩石には,ひとつの磁気記録しかありませんが,津波によって移動している岩石には,複数の磁気記録が存在しています。この記録を分析によって明らかにすることで,移動の履歴とその年代を明らかにすることができます。
Q4. それは今何の作業をしているのですか?
津波石から分析用のブロック試料をサンプリングしているところです。このサンゴが死んだ年代を知りたいので,サンゴの成長方向を確認して,最も新しいと考えられる部分でサンプリングを行います。それから,磁気分析のためには,地球の磁場中で岩石がどのような方角に位置しているのかという情報が必要となります。それをこのクリノコンパスを用いて測定して,ハンマーを使ってブロックを採取します。

研究室必須アイテム

ジオスライサー

バイブレーターを用いてコの字型のサンプルボックスとシャッタープレートを打ち込みます。
湿地などで形成された軟らかい堆積物を深度3 m程度まで採取することができます。
完新世(約11700年前から現在までの期間)の未固結堆積物を連続的に採取するためには欠かせないアイテムです。

Interviewer

若林 由佳子 (理学科 地球学コース,2年生)

Q. 今回,山田研究室をいろいろ回って,どうでしたか?
今回このような貴重な機会をいただきありがとうございました。
このインタビューを通して,先輩方と交流ができ,また山田研究室の雰囲気を直に感じ,有意義な時間となりました。
この経験を踏まえ,自分の進路について考えていきたいと思います。

関連する研究成果

論文1 Yamada, M., Fujino, S., Chiba, T., Chagué, C., Takeda, D.
"Recurrence of tsunamigenic intraplate earthquakes inferred from tsunami deposits during the past 7300 years in Beppu Bay, southwest Japan" Quaternary Science Reviews, (2021) 259:106901.

論文2 Yamada, M., Fujino, S., Chiba, T., Goto, K., Goff, J.
"Redeposition of volcaniclastic sediments by a tsunami 4600 years ago at Kushima City, southeastern Kyushu, Japan" Sedimentology, (2020) 67:1354.
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