受験生向け研究紹介

竹内 あかり

理学科 化学コース 無機化学分野

生体に学び、生体を超える!

現在の研究テーマ:生体由来物質を利用した無機材料合成
骨はヒトの体を支え運動を可能にする重要な器官ですが、病気や怪我、老化などにより、骨の機能はしばしば失われてしまいます。骨の損傷が小さい場合には、自らの修復能力によりその機能を回復することができますが、損傷が大きい場合には自己修復は不可能となり人工材料などにより損傷箇所を置換する外科的治療が行われています。

骨を修復するために用いられている材料の代表的なものに、ハイドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)の焼結体があります。これは、リン酸カルシウムの一種で、骨の無機成分によく似た化合物であるため骨と直接結合できるほど高い生体親和性を示します。しかし、これはセラミックスであるため硬くて脆いため、骨の強靱な機械的性質を示しません。また、合成されたハイドロキシアパタイトの化学組成は骨のそれとは少し異なるため骨のようにリモデリングサイクルで代謝されることもありません。

さて、骨はどのような環境で作り出されているのでしょうか? もちろん、セラミックスのように、1000℃ 以上の高温で焼き固められているはずはありません。骨は、蛋白質をテンプレートとした常温常圧の水溶液中での析出反応により構築されており、無機物質単独では達成困難な高強度と高靭性を併せ示すユニークな物性を発現しています。骨だけでなく、貝殻やヒトデ、ウニなどの海洋生物の無機骨格も海の中のマイルドな環境下で生み出され、これらはそれぞれの機能にあった強度や機能をもち、その形態もさまざまです。
生体の無機骨格が生み出されるプロセスに学び、水溶液中のマイルドな条件でリン酸カルシウムを合成すれば、骨と同じような材料を作ることができるだけでなく、骨よりも優れた機能をもつ材料を作り出すことができるのではないでしょうか。そこで私は、水溶液中での析出反応を利用したリン酸カルシウムの合成についての研究に取り組んでいます。水溶液中でのリン酸カルシウムの生成過程を詳細に調べることによるバイオミネラリゼーションのメカニズムの解明や、合成したリン酸カルシウムの骨修復材料としての応用を目指しています。

高校生へのメッセージ

化学の道を選んだ理由
私が化学の道を選んだ最初のきっかけは、高校生のときに "人工心臓が開発された"という新聞記事を読んでとても感動したことです。今となってはどのような内容の記事であったか正確には覚えていませんが、高校生だった私にとって、その新聞記事が生体材料との最初の出会いとなります。それ以来、生体材料の研究者になりたいと思うようになりました。当時の私は、物理が得意で化学は大の苦手でした。化学を勉強し始めたものの分からないことばかり。分からないというよりは、当時の私にとって化学は暗記することばかりのつまらないものという印象でした。そんな私に化学に興味を持たせてくれたのは、当時出会った化学の先生です。わたしが分からないところを質問にいくと、その先生は、問題の解き方だけでなく、「これは大学で習うんだけどねぇ」と言いながらいろいろな話を聞かせてくださいました。そのおかげで、私は、どうやら化学が暗記ばかりの科目ではないようだということに気づくことができました。その後、私は工学部の化学系の学科に進学しました。当然のことですが、大学で習う化学は、高校の化学とは全く違います。今まで暗記してきた事柄がつぎつぎと説明されていくわけですから、おもしろいと思わないはずがありません。大学卒業後は大学院に進学して、高校生のころから希望していた生体材料の研究に取り組みはじめ、幸運にも、その研究を続けながら、学生さんに化学を教える職業に就くことができました。
大学での生活について
大学で学ぶ事柄はとても多く、専門科目の基礎事項がまとめられている教科書はひとつで1000ページを超えるものばかりです。化学の基礎を習得したあと、みなさんは卒業研究として最新の研究テーマに取り組みます。当然のことながら、卒業研究を進めるためには、専門分野の最新の情報をも理解しておく必要があり、講義だけでこれらの知識を習得して完全に理解することは不可能ですし、それをすべて暗記することもできるはずがありません。従って、大学に入学して最も重要になるのは、教えられるのではなく自分から考え自分から学ぼうという姿勢になります。これは、勉強に限ったことではありません。大学生は時間も体力もあり、大学生生活はなんでもやりたいことにチャレンジできる唯一の期間ですので、学べることは無限にあります。これから信州大学に入学されるみなさんが、4年間の大学生活でなるべく多くのことを学び、信州から世界に大きく羽ばたく日を迎えられるよう応援しています。
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