受験生向け研究紹介

大木 寛

理学科 化学コース 無機化学分野

固体の結晶構造と分子の運動

現在の研究テーマ:固体の結晶構造と分子の運動を明らかにする
固体の中では分子が静止しているイメージを持っているかもしれません。しかし実際は固体中でも分子・イオンが様々な運動を行い,そのために物質の性質が決まっていることがあります。このような観点から固体の結晶構造と分子の運動について研究を行なっています。
固体の結晶構造を調べるにはX線回折という方法を使います。X線は医療分野ではレントゲン写真など人体内部を調べるのに使われますが、化学分野では分子などの構造や配列を調べることにも使われます。

例えばテトラクロロ-m-キシレン(TCMX)という物質があります(図1)。
図1: テトラクロロ-m-キシレン(TCMX)
室温でこの物質の結晶構造を調べた結果が図2です。この図は色が赤くなるにつれて電子数が増えていくように描かれています。真ん中の小さい六角形がベンゼン環、一回り大きな六角形がベンゼン環についている置換基を表わしています。この置換基部分に注目するとどこも同じくらい電子が存在していることがわかります。つまり塩素とメチル基を区別することができません。
これはTCMXが結晶内でいろいろな方向をでたらめに向いているからかもしれません。またはTCMXが非常に速く回転していて、塩素とメチル基の区別ができなくなっていると考えることもできます。

どちらであるかを確かめるために核磁気共鳴という方法を使って調べたところ、TCMXが速い回転を行っていることがわかりました。 このように固体の構造と分子の運動を明らかにすることによって、新しい素材の開発につながるような発見ができることを目標に研究を行っています。

高校生へのメッセージ

化学の道を選んだ理由
高校生の頃は物理が好きで、どちらかというと化学は嫌いな科目でした。物理は論理的に問題を解いていくことができますが、化学はそれ以前に記憶しなければならない事柄が多く、それに辟易していたのです。大学でも物理を勉強するつもりで物理学科を志望しましたが不合格で、第二志望の化学科に入ることになりました。化学を真面目に勉強する意思はそれほど強くありませんでしたが、大学で受けた最初の化学の講義で、化学がすっかり好きになってしまいました。その講義は非常に明解でわかりやすく、高校までではうやむやにされていたこと、暗記させられるだけで本質について全く触れられていなかったことについても、実際はこうなんだということを端的に示してくれました。さらに、化学は自ら考え、理解することを要求される実に楽しい学問の一つであることがわかりました。そうしてもっと知りたい、もっと新しいことを見つけていきたいと熱中しているうちに、いつの間にか、自分自身も大学で化学を教える側になってしまっていました。
大学に進学してから
まず、大学に入ることが目標とならないよう、大学に入ってからも勉強は続くということを決して忘れないで下さい。勉強は学生の本分です。大学生時代はモラトリアムのようにいわれることが多いと思いますが、何もしない時期であってはなりません。自分の将来について考えると同時に、その未来を実現するために努力して欲しいと思います。さらに自分の将来を考えるために、いろいろなことに興味を持って欲しいと思います。例えば、化学の分野に進んだとしても、化学だけを勉強するのではなく、新聞を読んで社会の動きに関心を持ったり、小説を読んだり、あるいはサークル活動をするなど、できることはたくさんあります。様々なことに取り組む時間があるのが若者の特権です。頑張って欲しいと思います。
大学の勉強
4年生になると研究室に配属されて、卒業研究の課題を決めます。このときの課題は、世界中でまだ誰もやったことがない最先端の研究です。これを逆に考えると、大学生になってからわずか3年間で高校生レベルの知識から世界最先端のレベルまで上げていかなくてはいけないわけです。そのために必要な事柄を全て講義で教えてもらうことは実質的に不可能です。従って、大学での講義はさらに深い知識は学生本人が自ら進んで調べていくことを前提としています。人間は本来、好奇心の塊です。また、わからなかったことがわかるようになったときの嬉しさは格別です。皆さんが、学問の楽しさを知ることができるよう願っています。
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