受験生向け研究紹介

金 継業

理学科 化学コース 分析化学分野

超音波を利用した新しい分析技術の創出

現在の研究テーマ:超音波による新しい反応場の形成と分析化学への応用
超音波は人の耳に聞こえない周波数 20 kHz 以上の音波を指します。溶液に超音波を照射しても、そのエネルギーは分子の振動エネルギーより低いため、通常は直接化学反応を引き起こすことはできません。しかし、液体に超音波を照射した際にキャビテーションと呼ばれる気泡の発生、圧縮、崩壊過程が起こると、数千度、数千気圧の高温の反応場が形成されます。水分子は熱分解されてヒドロキシルラジカル(OH・)や過酸化水素(H2O2)などの活性酸素種が生成され、微量のルミノールが共存すると図1Aに示すように化学発光現象を観測することができます。このような反応場を利用してこれまでの方法では合成されない全く新しい化合物の合成が可能になります。
私は現在、電気分析化学の機能化、高感度化に関する研究を行っています。ナノ粒子、カーボンナノチューブ等のナノ材料は高い電気化学的触媒特性を示すため新しい電極材料として注目されています。私は超音波反応場による貴金属ナノ粒子の新しい合成方法の検討を行っており、調製したナノ粒子を電極表面に修飾することによって、生体中の活性酸素などを高感度で計測できる電気化学センサーの創出を目指しています。また、超音波反応場中の電気化学反応では電解効率が格段に向上するため、これを利用して従来の検出限界と選択性を遙かに凌駕する超高感度ストリッピングボルタンメトリーの開発を行っています。その一方で、超音波が発生する定在波は微粒子を溶液中にトラップし、無重力の状態を作り出すことが可能です(図1B)。溶液中微粒子、特に細胞などのバイオ粒子の新しい分離・濃縮場としての利用を探索しているところです。
図1: 超音波による反応場の形成 (A)超音波による発光反応 (B)超音波による微粒子を操る

高校生へのメッセージ

私は中国上海で高校、大学生活を送りました。大学3年のときに、大学と上海市が連携した上海郊外にある淀山湖の水質調査プロジェクトに参加したことをきっかけに環境分析に興味を持ち、その後の卒業研究を分析化学講座で行いました。そして大学を卒業後、環境分析のための最先端分析法を学ぶという目的で憧れていた日本への留学を決意しました。
留学先の名古屋大学工学研究科原口研究室では、環境分析に無関係の「レーザーラマン分光法による導電性高分子の微細構造解析」という研究テーマが与えられました。そこで、故障が多く、恋人を相手にするような気持ちで接しないとデータが取れないレーザーラマン分光光度計に出会いました。周囲からノイズの影響を抑えるためにほとんどの実験は深夜に行ないました。直接の指導をしていただいた助教授の方と、深夜までカンカンガクガクの議論を行い、普段の授業では得られないような知識からお酒の楽しみ方まで、いろいろと教わりました。2000年白川英樹博士のノーベル賞受賞により、現在導電性高分子は世界的にも広く知られるようになりましたが、当時は地味で、基礎的な研究分野でした。でも、その頃に学んだことは今の研究を進める上で大きな礎となっている気がします。
私は岐阜大学工学部より信州大学に赴任してきて、現在は電気化学を中心に据え置きながら、微量成分の高感度検出技術の開発に関する研究を推進しています。大学における学生生活では、研究や学業に没頭する時期も重要だし、部活や読書に没頭する時間も必要です。特に携帯電話やパソコンによるメールでの意思伝達の時代において、人とのコミュニケーションはより大切ではないかといつも学生に伝えています。研究室生活は毎日朝の輪読(英語の教科書を読む)から始まり、そして各学生が2~3週間に1回、自分の研究状況を発表し、討論します。また週1回コロキウムを行い、各自の研究に関連のある論文を解説し議論します。素直でがんばり屋が多いのですが、研究には忍耐力が必要ですし、辛いことも多いので、皆が楽しく主体的に研究を進めてもらうためにはどうすればよいかをいつも考えています。
分析化学の研究目的は「人に見えないものを見える」ようにすることとも言えます。新しい分析計測法の開発は自然のしくみを知る最も強力な手がかりであり、その発展は将来の産業を支える重要な基礎技術にもなります。若い研究者・技術者がこの分野に興味を持ち、新鮮なアイデアを持ち分析機器・技術の研究開発に参加されることを期待したいと思います。
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