受験生向け研究紹介

石川 厚

理学科 化学コース 無機化学分野

同位体をイオン交換で分ける

現在の研究テーマ:原子核と化学
研究紹介1 原子核から分子を観る
原子核は点ではなく形をもっています。形は、球だけでなく、球を一方向に引き伸ばしたレモン型や、球を一方向に縮めたミカン型があります。また、原子核は自転もしていますが、レモン型やミカン型の原子核は、核の周りの電子から引力を受けて、コマのように自転軸を振って歳差運動をします。歳差運動の周波数は、核の形状と化学結合で決まります。実験では、試料をコイルに入れラジオ波との共鳴により、核の歳差が検出できます。この実験手段は核四極共鳴といいますが、この共鳴周波数から化学結合を研究できます。通常の化学分析だけでは分からない電子状態や分子運動を金属錯体ついて研究しています。
研究紹介2 同位体をイオン交換で分ける
同位体とは、同じ原子番号の原子のうち質量数が異なる原子のことです。同位体は同位元素とも呼ばれ、同じ元素に属します。それゆえ同位体の化学的性質は同じと習っているかもしれません。しかし、実際には異なる同位体間の化学的性質はわずかに違っています。原子核の違いが化学的性質の違いに起因します。これは量子力学や統計力学を学ぶと分かることですが、軽元素について説明すれば、質量の違う同位体が分子に入ることで分子の振動エネルギーがわずかに変化し化学平衡が少しだけずれるということです。物質に含まれる軽元素の同位体の組成を分析することで、地球化学や環境科学の問題を研究できます。考古学など人文科学でも同位体がさかんに応用され始めています。
同位体の化学的性質の差異は化学反応で同位体を互いに分離することにもつながります。軽元素の代表であるリチウム同位体をイオン交換で濃縮する研究を私は行っています。イオン交換体にゼオライトAを使っています。ゼオライトAは、無りん洗剤として代替された無害の硬水軟化剤で、家庭用洗濯洗剤にも含まれています。まず、イオン交換でアンモニウム型ゼオライトAを調製し、これに硝酸リチウム溶液を流すと、流出液に7Liが濃縮し、ゼオライトに6Liが濃縮します。同位体間の分離を表す数値である同位体分離係数は、かつて実用化された水銀法に近い値になっています。ゼオライトのイオン交換を制御することで、効率の良い同位体濃縮を目指し研究しています。
研究紹介3 化学のふしぎ
化学には面白い反応や不思議な現象が沢山あります。高等学校で化学を習って感じているかもしれません。信州大学自然誌科学館では毎年夏に理科の実験を理学部で皆さんにお見せしています。私の担当した実験は「空と水の青」「身の回りの指示薬」「染色の実験」「栄養強化食品中の鉄」「日焼け止め」などです。基本実験を取上げています。大学の化学の講義にはもちろん高等学校の発展授業にも使えます。化学教育のため教材研究も始めました。

高校生へのメッセージ

化学は実験をもとにしている
化学は物質を正しく理解し、利用する学問です。物質はさまざまで性質もさまざまであるので、実験によって発展してきました。発展の過程で大事なことは実験を行うのも結果を解釈するのも人であるということです。何を問題にするのか、どうに理解するのか、その人の主体的問いかけが実験の原動力になって化学は発展してきています。
物質の性質をよく知ることが大切
元素の周期律表を見てみましょう。水素は1族元素に分類されています。水素の単体は常温で気体、非金属です。同族のリチウム、ナトリウム、カリウムは金属です。非金属と金属が同じ族に分類されていますが、よいのでしょうか。元素単体の性質が周期律に厳密に従うわけではないので、通常、これでよいのです。超高圧のため木星の中心部は金属水素であると考えられています。水素も金属になりうる素質がありそうですが、飛躍があるように感じます。

水素を17族に分類することもできます。水素は水素化物を作るので、金属元素と塩を作る17族のハロゲンと性質が似ています。ハロゲン元素は非金属です。フッ素、塩素は常温で気体です。つまり水素は1族にも17族のどちらにも分属できます。一つの元素が二つの族に入れられることは矛盾のように感じるかも知れませんが、水素にはもともとそのような性質があるのでそれでよいのです。そのような周期表は外国の教科書にあります。

化学の本質は物質の示す多様性にあります。周期律をはじめとする化学の理論や法則は数学や物理学とは異なり大局を述べているのです。
MENU