受験生向け研究紹介

飯山 拓

理学科 化学コース 物理化学分野

極微小空間中の分子を見る

現在の研究テーマ:X線と吸着測定による微小空間中の分子集団構造の解明
コップに入った水、消しゴム、鉛筆の芯、そしてあなた自身・・・など、身の回りにある全ての物質は「分子」または「原子」からできています。しかし、分子や原子の存在を感じることは普通ありません。それは分子が非常に小さいためです。例えば「水」を例にとると、18 gの水は6×1023個(=100万の100万倍の100万倍の100万倍に近い数)の水分子によって構成されています。水分子はあまりにも小さく、そして私たちが普通目にする水は、あまりにも多くの水分子からできているために、私たちは「水」が分子という小さなつぶからできていることを感じとれないのです。

もしこのような分子を、分子数個分の大きさを持つ、とても小さな容器に入れることができたら、いったい何が起きるでしょうか? 分子のふるまいはその物質の性質を決めています。例えば、たくさんの分子がお互いに固く結びつけば、その物質は「固体」となります。分子同士がゆるく結びつき、互いの位置を入れ替える場合はその物質は「液体」に、分子が自由に動き回れる場合には「気体」になります。もし分子が1個しか存在していなければ? 固体や液体、気体の区別をつけることはできません。

水道水の浄化などに利用されている活性炭には幅1 nm (1ナノメートル =10-9 m) 程度の大きさの穴(細孔)が大量にあいています。これは水分子わずか3~4層に相当する大きさです。細孔の内部の固体表面と分子の間には強い引力が働くために、水やエタノールをはじめとする様々な分子が自発的に入っていきます。私たちはこのような多孔質固体を、分子を閉じこめる小さな容器として利用し、その内部の分子のふるまいを探っています。細孔はごく微小な空間である上、活性炭であればそれを構成する炭素原子に囲まれてしまっているので、顕微鏡などで内部をのぞくことはできません。そこで私たちはX線による回折測定とコンピュータによる数値計算を組み合わせて、細孔内部の分子の実体に迫っています。
自由な分子(左)と狭いところに閉じ込められた分子(右)
活性炭中の水について行った実験では、微小空間中の水分子は、室温においても氷に近い構造を持つことがわかりました。通常の氷は水分子同士がしっかりと結びついてできていますが、「すきま」が多い構造であることが知られています。温度が上がって0 ℃以上になると、水分子同士の結合構造が次第に崩れて分子が自由に動き回るようになり、すきまもつぶれて体積が小さくなります。微小な空間の中では、水分子は本来液体である温度であっても、通常とは異なる構造を持っているのです。さらにこれを冷却していくと、0 ~ -130 ℃にわたる広い温度範囲で、構造が連続的に変わることもわかりました。通常、水は融点(0 ℃)で液体から固体へと構造が「突然」に変化し、それ以上冷却しても構造はほとんど変化しません。微小な空間中では、水分子の数が非常に少ないために、このような特殊な挙動が起きるのだと考えられます。他にもエタノール分子等でも、通常とは異なる微小空間独自の特殊なふるまいを確認しています。
微小空間中のエタノール分子
細孔の中に捕らえられる分子は水やエタノールだけではなく、クリーンエネルギーとして期待される水素や、地球温暖化の原因となっている二酸化炭素、水道水中の有害物質であるクロロホルムなどがあります。私たちはこれらの分子のより効率的な貯蔵、あるいは除去を行える物質の開発に寄与するため、種々の分子の微小空間内のふるまいについて研究を進めています。

高校生へのメッセージ

いくつかの法則や原理で微小な世界から宇宙全体の構造まで描き出す物理と、わずか100種類程度の元素とその結合であらゆる物質のなりたちを解き明かす化学に魅力を感じていました。高校2年の時、これらを組み合わせた「物理化学」という分野の存在を知り、化学を志望しました。
化学の道に進んだ理由
大学進学に向けてのアドバイス
テストで点をとるためだけの勉強はつまらなく、味気ないものです。テストのための勉強ももちろん必要ですが、理想的にはその先の「勉強を楽しむ」レベルを是非目指してほしいと思います。私も高校時代には、特に英語や歴史が大嫌いでほとんど勉強もしておりませんでした。今なら英語も歴史も「おもしろい」と思えるのですが、当時は点を取るための丸暗記にうんざりしていたのです。(理科だけは当時から「おもしろ」かったのですが・・・。)
私の授業内容
物理化学の必修授業(量子力学、分子運動論、熱力学)を担当しています。実験では演示実験(ピストンの圧縮で綿を燃やす、アルミニウムと鉛のどちらが氷を多く融かすことができるか、など)を取り入れて、物理化学が教科書の中だけでなく、身近な現象とつながっていると実感してもらうことを目指しています。
身近な現象を数式などを使って解き明かす、物理化学の「おもしろさ」を感じてもらいたいと考えています。
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