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全研究総覧

中山間地域に分布する新規鑑賞植物の探索と地域資源としての利用 【地域】 飯田市上村 下栗地区

はじめに

中山間地には様々な観賞植物の原種が原産する。日本原産の観賞植物の原種が海外へと持ち出され、品種改良を受けた上で日本に逆輸入され、好評を持って迎え入れられている例は多い。豪華な切り花ユリの代表格であるカサブランカは日本の山野に自生するヤマユリなどが欧州で改良され、逆輸入された品種である。また、近年母の日のギフト鉢物として立場を確立しているアジサイも、日本原産の原種を用いて欧州で品種改良が行われたものである。このように、中山間地には観賞植物の遺伝資源が多く存在し、現在も未利用なままで眠っている。

本調査では、未知の観賞植物を発掘し、省力的な生産が可能な観賞植物としての育成や、自然庭園などといった地域資源として利用することを目的とし、中山間地に原産する観賞植物の抽出を行い、利用法を考える。

方法(調査地)

調査1:地域住民における観賞植物原種の認知と植物種の抽出
上原助教との共同調査として、飯田市上村の下栗地区において、ロッジを経営する家族を例に聞き取り調査を行い、地区内に自生する観賞植物として有用となり得る植物の抽出を行った。

調査2:南信地域の中山間地における山採り観賞植物の抽出
主に南信地域の中山間地において活動する農業改良普及員に対して聞き取り調査を行い、商業ベースの生産は行っていないものの、地域の山野からの採取物(山採り物)を出荷している観賞植物の例、出荷形態を挙げていただいた。

結果と考察

調査1:地域住民における観賞植物原種の認知と植物種の抽出
現在は山野草として愛好家に栽培されている観賞植物が多く抽出された。そのすべてが即、地域資源としての利用が可能な観賞植物として耐えうるものではない。しかし、なかにはヤマアジサイ、ウバユリ、ホタルブクロなど、調査2において山取り出荷されていることが明らかになった植物種が含まれていた。また、ニホンジカの食害によって、以前に比べて減少したとする証言や、山野草としての販売目的の乱獲が原因で減少している植物種が多く含まれ、何らかの保護策が必要とされる現状が浮き彫りになった。

調査2:南信地域の中山間地における山採り観賞植物の抽出
主に農家が、本業である農業生産の傍らで山野に産する観賞植物を採取し、出荷している例を抽出した。抽出された植物種は、サルトリイバラ、アケボノソウ、フシグロセンノウ、ヤマアジサイ、ホタルブクロ、ウバユリなど、多岐に渡った。これらの山取り観賞植物の出荷形態は様々であり、サルトリイバラの場合はつる性の枝と赤く着色した果実を観賞する枝物として、ウバユリの場合は果実が形成された植物体の特異な姿を観賞する切り花として出荷されていた。これらの植物種が商業ベースで生産されている例はなく、新たな出荷形態を採取者が独自に考案することで、新規な商品性が与えられていた。植物種によっては、商業ベースで生産される観賞植物よりも高い出荷単価を得ているものも多く、地域経済を支える有用資源として今後発展する可能性がある。

今後の方針と計画

今回の調査で抽出された植物種のすべてが有用観賞植物として利用可能なものではない。自然庭園として利用する上では、ある程度の管理のもとで生存が可能な植物種、観賞価値がある植物種への更なる絞り込みが必要である。また、山採り観賞植物を新規な観賞植物へと育成するには、現在以上の需要が見込まれる必要があるし、生産ベースにのせることができる優秀かつ均一な遺伝資源の選抜が求められる。
今後はさらなる有用観賞植物の抽出を行いながら、上記に挙げた2点について調査を進めてゆく。

研究者プロフィール

北村 嘉邦
教員氏名 北村 嘉邦
所属分野 農学部 プロジェクト研究推進拠点
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他の研究 イメージマップによる里地・里山の認知・利用領域と有用植物認知度の世代間比較