研究概要

計算科学と各種の計測・解析技術を用いた実験の相互フィードバックによる制約ナノ空間を基盤とした新奇機能性材料の探索と創製を目的とし,主として下記の研究を行っています。

柔軟ナノ多孔体を用いた高効率吸着ヒートポンプ

東北大学の西原洋知先生との共同研究です。ゼオライト鋳型炭素またはグラフェンメソスポンジからなるモノリス状の多孔体(ナノスポンジ)に水蒸気やエタノール蒸気を吸着(液体状態)させ,これに機械的圧力を加えると,吸着分子が直ちに脱着し,かつ,その際の液−気相転移によって冷熱が得られることを明らかとしたものです。つまり,ナノスポンジに圧力を印加して圧縮すると吸着分子の脱着による冷熱が得られ,また,圧力印加を停止して圧縮前の構造に膨張・復元させると,蒸気の再吸着によって温熱が得られることになり,その潜熱を利用するならば,ヒートポンプを実現することができます。Nat. Commun. 10, 2599 (10 pp) (2019). doi.org/10.1038/s41467-019-10511-7

 

Flexible metal–organic frameworkによるハイスループットCO2分離

京都大学の平出翔太郎先生,宮原稔先生との共同研究です。自身が吸熱的に構造変形することでCO2を取り込む際の熱発生を抑えることが可能なゲート型吸着剤(ELM-11)に着目し,その優れたCO2分離性能を明らかとしました。さらに,ELM-11の特性を活かした高速度吸着分離システムを考案し,そのCO2分離効率が従来方式と比較して極めて高くなることを見出しました。本研究は,ゲート型吸着剤がCO2の吸着分離回収システムの高効率化・省エネルギー化に有用であることを初めて明らかとしたものであり,さらに高性能なゲート型吸着剤の探索・開発への大きな追い風となることが期待されます。Nat. Commun. 11, 3867 (15 pp) (2020). doi.org/10.1038/s41467-020-17625-3

 

月面サーマルマイニングを指向した低温ガス吸着回収技術の開発

JAXA 宇宙探査イノベーションハブ 第12回研究提案募集に採択され,高砂熱学工業株式会社様と共同で行っている研究です。月面サーマルマイニングにおいて水と共に放出されることが期待されるHe同位体(3He, 4He),水素同位体(H2,D2,DH),COなどといったガスの分離回収を目的とする「クライオガス吸着回収システム」の要素技術開発を行っています。本クライオガス吸着回収システムは,ガス選択性の高い活性炭を温度の異なる個別のクライオパネルに搭載し,各発生ガスを分離回収しようとするものであり,本提案ではそれぞれのガス分離回収に適した活性炭を探索・新規開発すると同時に,クライオパネルへの搭載に適したモノリス状活性炭を製作するための技術開発を行っています。特に,将来の核融合発電炉の燃料となる3Heの分離回収を可能とするための活性炭開発を主眼とし,研究を推進しています。JAXA 宇宙探査イノベーションハブ 第12回研究提案募集

 

イオン交換体による水素同位体分離技術の開発

淡水中に存在する重水素(水素に対する存在比:約0.014%)を分離・濃縮するための材料の探索およびシステム開発を行っています。重水素は,重水素化医薬品,NMR溶媒,光ファイバー,LSI,有機ELなどに用いられる高付加価値物質である他,将来の核融合炉の燃料となることが期待されています。本研究では,水中の水素イオン(proton)に対して重水素イオン(deuteron)を優先的に吸着するdeuteron交換体(下図)の探索を行うと同時に,deuteron交換体を用いた重水素濃縮システムを開発することを目指しています。ここで,本研究では機械学習ポテンシャルを用いたPath Integral Molecular Dynamics(PIMD)シミュレーションによる材料のスクリーニングを行うことを目指しています。PIMDシミュレーションとは,protonやdeuteroといった軽量原子核の位置不確定性(量子効果)をFeynmanの経路積分法によって考慮し,これを分子動力学法法に適用したものです。このPI法の適用によって初めて,protonに対するdeuteronの選択性を評価することが可能となります。

 

信州大学

信州大学 アクア・リジェネレーション機構
田中研究室

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