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甲状腺がんが、がん分子標的治療薬に抵抗性を獲得する機構の一部を解明しました

2022.10.17

 甲状腺がんは内分泌系悪性腫瘍の中で最も多いがんであるが、有効な薬物療法は少なく進行再発甲状腺がんに対しては、がん分子標的治療薬レンバチニブが広く用いられてきました。しかし、レンバチニブに対して治療の最初から抵抗性を示すがんや、治療中に耐性を獲得するがんもあり、より有効な治療戦略の開発のためにはレンバチニブ耐性機構の解明が必要です。そこで、信州大学医学部外科学教室 乳腺内分泌外科学分野では、培養甲状腺がん細胞株を用いて、レンバチニブ耐性の分子生物学的機構の解析を行いました。
 甲状腺がん細胞株(TPC-1、FRO)を用いてレンバチニブ耐性株(TPC-1/LR、FRO/LR)を樹立したところ、TPC-1/LRではEGFR、細胞外シグナル制御キナーゼ(extracellular signal-regulated kinase, ERK)、Aktのリン酸化の著明な亢進が認められました。そこで、耐性を獲得する前のTPC-1とFROの親株に上皮成長因子(epidermal growth factor, EGF)を投与してEGFR経路を活性化すると、レンバチニブ感受性の低下が誘導されました。一方、EGFRのリン酸化が亢進しているTPC-1/LRに、レンバチニブと同時にEGFR阻害剤ラパチニブを投与すると、増殖抑制効果の増強が認められました。
 次に、ヌードマウスにレンバチニブ耐性のTPC-1/LR細胞を移植したマウス異種移植モデルで、レンバチニブにラパチニブを併用して投与すると、レンバチニブ単剤投与に比べ有意な腫瘍増殖抑制効果が認められました。
 さらに、レンバチニブの甲状腺がん細胞のシグナル伝達に対する作用を、6種類の甲状腺がん細胞株で解析したところ、レンバチニブの投与により、甲状腺がん細胞の組織型やドライバー遺伝子変異の違いに関わらず、全ての甲状腺がん細胞株でEGFRリン酸化の増強が観察されました。しかし一方で、下流のシグナル伝達分子であるERKやAktのリン酸化には細胞株間で違いが認められました。
 ラパチニブ併用によるEGFRの阻害作用により、レンバチニブの細胞増殖を抑制する効果が増強されることを検証するために、これらの6種の細胞株に両剤を同時に投与すると、もともとレンバチニブ感受性が低い3つの細胞株で、レンバチニブとラパチニブによる増殖抑制効果の相乗的増強が認められました。
 レンバチニブは、主に血管内皮増殖因子受容体(vascular endothelial growth factor receptor 1-3, VEGFR1-3)や線維芽細胞増殖因子受容体(fibroblast growth factor receptor 1-4,FGFR1-4)、Rearranged during transfection (RET)遺伝子の働きを強力に阻害することで抗腫瘍効果を示しますが、今回の研究結果から、甲状腺がん細胞ではレンバチニブ投与により、レンバチニブの標的分子ではないチロシンキナーゼ受容体(tyrosine kinase receptor, TKR)であるEGFRを介したシグナル伝達の活性化が誘導されることが、甲状腺がん細胞のレンバチニブ耐性の一因になっている可能性が示され、EGFR阻害剤の併用によるこの経路の阻害が、甲状腺がん細胞のレンバチニブ感受性を高め、耐性を克服するための新たな治療戦略になる可能性が示されました(図1)。
 この研究成果は科学誌Cancer Scienceに2022年6月20日付で掲載されました。

Fig01_c.jpg

(図1)

プレスリリース(PDF)

EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/964494

【論文タイトルと著者】
タイトル:Epidermal growth factor receptor activation confers resistance to lenvatinib in thyroid cancer cells(上皮成長因子受容体の活性化が甲状腺がん細胞にレンバチニブ耐性をもたらす)
著者:大野晃一、柴田智博、伊藤研一
掲載誌:Cancer Science
発表日 :2022年6月20日
D O I : 10.1111/cas.15465.