信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF トレーニング効果と個体差に関する基礎的研究 ― Ⅴ.持久的トレーニングの同一近交系雌固体間マウスにおける細胞性免疫機構の応答

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.13 Vol.13

 生体を細菌の感染や異物から保護するため,生体での防衛機構は大きな役割を果たしている.その生体防御機構は大きく,細胞性免疫機構と液性免疫機構に分けられる.生体防御機構に対して,運動が大きな影響を及ぼすことが知られてきた7,8).著者ら11,12)は,これまでこの両免疫機構の運動に対する応答に着目し研究を進めている。6ヵ月に渡る長期の持久的トレーニング前後で,白血球,全リンパ球,リンパ球サブセットには変化が見られなかった,しかし液性免疫の指標としたIgG,IgAの濃度は,統計的に有意な変化を示した.
 すなわち,この実験結果から長期の持久的トレーニングは,細胞性免疫機構と液性免疫機構に及ぼす影響が異なることが判明した.運動(トレーニングを含めた)の免疫系に及ぼす機序の詳細については十分に解明されていないが,カテコールアミン1,9),コルチゾール2,23)等のホルモンや,乳酸6)等の中間代謝産物が影響を及ぼすことが報告されている.その中でも,森本ら10)の仮説は興味あるものである.長期のトレーニング群はコントロール群に比し,運動後,血中でのACTH値(副腎皮質刺激ホルモン)の低値を示す.このことは,視床下部コルチコトロピン放出因子の下垂体への刺激の減少に基づくものとし,そのコルチコトロピン放出因子分泌を刺激する末梢からのIL-1や,プロスタグランジンの分泌量が運動経験の有無により,大きく変化することを示唆している.しかしIL-1やプロスタグランジン分泌の産生器官や,産生機序については不明なことが多い.リンパ球の産生が,コルチゾールにより抑制されることは一般的に知られており,運動との関係が注目される.T細胞の増殖を誘導するCon A(コンカナバリンA),PHA(フィトヘマグルチニン)のT細胞形成に及ぼす影響について報告された成績をまとめると,一過性の運動後,あるいはトレーニング後には,Con AやPHAの幼若化反応は高い3,14)という報告,逆に低下する4,5,13)という報告も見られ,その見解は一致していない.その理由の一つに,個体に差があると解される。そこで長期間のトレーニングが,生体防御機構に及ぼす個体差を理解するため,T細胞(ヘルパーT細胞サプレッサーT細胞),B細胞の動向に着目し実験を行った.今回の実験においては,近交系マウスを用い,均一な遺伝的条件を設定し,環境的要因の細胞性免疫機構に及ぼす影響について検討した.

「デサントスポーツ科学」第13巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 小川芳徳, 山内秀樹
大学・機関名 東京慈恵会医科大学

キーワード

生体防御機構持久的トレーニング細胞性免疫機構液性免疫機構