信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 筋肉痛が生じている部位の運動を行ってもよいのか?

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.17 Vol.17

 エクセントリック運動に伴う筋肉痛がピークである時期に,さらにエクセントリック運動を行った場合の筋損傷については検討されていない.本研究では,エクセントリック運動による筋肉痛がピークの状態で,さらなるエクセントリック運動を負荷した場合,筋損傷は悪化し,筋の損傷からの回復も遅れるのではないかという仮説を検証することを目的とした.被験者にはレジスタンストレーニングを習慣的に行ったことがない8名の男子大学生を用いた.片方の腕では,肘関節角度90度にて測定した最大等尺性屈筋力の50%に相当する重量のダンベルを用い,肘屈曲位(肘関節角度:約60度)から肘伸展位(肘関節角度:約180度)まで約5秒間かけてゆっくり降ろす運動を10回3セット実施した.検者は被験者の肘が伸展した時点でダンベルを支え,被験者が無負荷で肘屈曲位に腕を戻し,つぎのエクセントリック動作ができるようにダンベルの移動を行った.15秒に1回ずつエクセントリック動作を行い,セット間は3分とした.この運動の3週間後に,他方の腕で同様なエクセントリック運動を3セット行い,さらにこの腕には1日おきに計3回の運動を負荷した.すなわち,1回目のエクセントリック運動による筋肉痛がピークであるときに2回目のエクセントリック運動を,さらに筋が前の運動から回復していないときに3回目の運動を負荷した.
 肘関節角度90度における最大等尺性屈筋力,弛緩時および最大屈曲時の肘関節角度,上腕部周径囲,筋肉痛,血漿クレアチンキナーゼ(CK)活性値を間接的な筋損傷指標とし,これらの変動を両腕間で比較した.エクセントリック運動を1回のみ行った腕と3回実施した腕では,弛緩時肘関節角度,上腕部周径囲9CKの変動に有意差が認められた.しかし,これらの差の要因は必ずしも2回目,あるいは3回目の運動を負荷したことにあるとは考えにくかった.筋肉痛は,2回目,3回目のエクセントリック運動に伴っては発現せず,運動直後にはむしろ痛みが軽減していた,これらの結果より,筋肉痛がある筋肉にさらに筋損傷を誘発するような負荷をかけても,筋肉痛は悪化せず,また,筋の損傷からの回復が著しく妨げられることもないことが明らかになった.

「デサントスポーツ科学」第17巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 野坂和則, 坂本啓
大学・機関名 横浜市立大学

キーワード

エクセントリック運動筋肉痛筋損傷回復