臨床家 大友弘士先生との忘れられない出会い

浜野 英明(はまの ひであき)助教  信州大学医学部 内科学消化器内科  2009.06.03

私にとって忘れられない一人の医師との出会いを紹介したい。松本市内の一般病院に一人の患者が紹介された。海外から帰国し、高熱が続くその患者は既に他院でマラリアと診断されていた。しかしその種別に難渋した。臨床症状が重篤になる熱帯熱マラリアかそれ以外のマラリアかを鑑別することができなかった。末梢血塗抹標本にて原虫を確認はできるものの、寄生虫学の教科書には輪状体の大きさやクロマチン顆粒の個数などで鑑別できるとあるが、現実はそれほど容易ではなかった。大学の寄生虫学教室にも問い合わせをして、相談にのっていただくが、確定診断には至らない。そこで私は東京慈恵会医科大学・熱帯医学教室に電話で相談をすることにした。当時2年目の医師であった私の話を丁寧に聞いてくれたのは大友弘士教授であった。そしておもむろにこう話された。「確かに熱帯熱マラリアの可能性があると思われますが、もしそうであれば早急に診断し治療が必要です。実際に塗抹標本を確認する必要がありますので、今から松本にうかがいます。」私は絶句した。予期せぬ展開であった。確かに熱帯熱マラリアであれば重篤になる可能性が高い、でも教授自身が電話一つの相談ですぐにこちらまで出向いていただけるなどとは考えてもみなかった。その日の夜、大友教授はお一人で松本においでになった。駅まで迎えに行った私はすぐに病院で標本をみていただいた。「これは熱帯熱マラリアです。すぐに治療をしましょう。患者さんにお会いしていいですか。」そして持参されたメフロキン(当時はオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品))を患者さんに服薬させた。「私は年中こんな感じで日本全国を飛び歩いています。」と言い残してその日の夜行列車で帰京された。後に大友先生は日本を代表するマラリアの第一人者であり、当時の厚生科学研究費補助金オーファンドラッグ開発研究事業・熱帯病治療薬の開発研究班の主任研究者であることを知ったが、尊敬すべき臨床家に出会えた幸せを私は今でも感謝している。この出会いが無ければ、医師としての現在の私はなかったに違いない。

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