酒は百薬の長か毒薬か

吉澤 要 (よしざわ かなめ)講師  信州大学医学部内科学 消化器内科  2009.01.28

 

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アルハラ(アルコール・ハラスメント)という言葉を知っていますか。これは酒を強要することです。特に4、5月、大学や職場での新人歓迎会。「毎年恒例だから」、「俺の酒が飲めねーのか」など。酒は人間関係の潤滑油で、適度に酔えば仲間と打ち解けた雰囲気を作り出してくれます。しかし、一歩間違えれば酒を飲んだ人、飲ませた人、その家族に取り返しのつかない悲劇をもたらします。Aさんは一年浪人して念願の大学に入学し、ある運動部に入りました。歓迎コンパは最高潮に達し、「イッキ、イッキ」の声に焼酎を一本空けてしまい、その場で意識を失いました。しばらくして異常に気づかれ、病院に運ばれましたが手遅れでした。ご両親は息子の命を奪った真相を解明し、そして二度とこの悲劇を繰り返さないためにと裁判を起こしました。
なぜこんなことが起こってしまったのでしょう。アルコールの血中濃度が上がると、最初は意気高揚とした気分になります。そして、次には人間らしさを司る大脳皮質が麻痺し、抑えられていた人間の本能が現れます(理性を失う)。さらに血中濃度が上昇すると呼吸や心臓といった生命の維持を司る脳幹部まで麻痺して命を脅かします(急性アルコール中毒)。酒を勧める人も、酔って理性を失っていますので、執拗に酒を勧めてしまいます。また、周りのみんなも同様ですので、イッキイッキとはやし立てます。そこがお酒の怖いところです。
さて、酒に強い弱いは何で決まるのでしょうか。肝臓はエチルアルコールをアルコール脱水素酵素によりアセトアルデヒドという物質(吐き気や頭痛の原因)にし、アセトアルデヒド脱水素酵素(IとII)により酢酸に変えます。酒に弱い人は、この酵素IIが遺伝的に働きません。そのため飲めない人はいくらがんばっても飲めません。ではどうしたらお酒とうまく付き合っていけるでしょうか。まず、自分の限度を知り、断る勇気を持つこと。血中濃度を上げ過ぎないよう食事をしながら飲む、イッキ飲みはしないなど。
人生を狂わす酒の害は他にもあります。アルコール性膵炎(激しい痛み、糖尿病)、重症アルコール性肝炎(救命率約30%)、アルコール性肝硬変そしてアルコール依存症。これらは、酒に強い人がなります(飲みすぎるためです)。適量(日本酒なら2合以下)を守り楽しい酒を飲みましょう。

 

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