高度先進医療を担う人間性豊かで、意欲と情熱に満ちた医療人・医療研究者を養成

大橋 俊夫(おおはし としお)教授  器官制御生理学・前医学部長    2009.01.28

●環境に恵まれた総合大学の伝統ある学部
信州大学医学部は1944年(昭和19年)春、松本医学専門学校として誕生しました。その後松本医科大学を経て、1949年(昭和24年)、新制信州大学の六つの学部(当時)の中の一学部として衣がえをし、以来、今日まで60年近い歩みの間、学部講座の新設と充実、附属病院の整備・拡張と診療科の増設、大学院研究科の設置と拡充、保健学科の新営等、組識の体制を整備・充実させてきました。同時に、長野県唯一の国立大学医学部として、地域の医療および保健・福祉の面においても、指導的かつ先進的推進センターとして大きな役割を果してきました。また、2002年(平成14年)秋から看護師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士等の育成を目指した医学部保健学科が併設され、医療人育成のための新たな取り組みも始まっています。この60年における医学部医学科の卒業生は約4800名で、長野県はもとより全国に医師や医学の教育・研究者として送り出し、各分野で活躍しています。


●「100年生きる地球人」を念頭においた医学教育の推進
ご存知のように信州大学を始めとする国立大学は2004年(平成16年)4月から国立大学法人に移行しました。医学部の教育・研究・診療と言えども聖域ではなく、効率を常に意識した大変革が求められています。すなわち、国民に対する説明責任を果しつつ、透明性をたえず維持しながら大改革をつきつけられています。教職員ばかりでなく、学生も、患者さんも、社会も、医療系の大学や学部はいかにあるべきか、真剣に再考すべき時が到来しています。私共信州大学医学部の存立の原点は、やはり「社会や国民の負託に答えて、人間性豊かで、意欲と情熱に満ち、知識と技術を身につけた医療人や医療教育・研究者を責任を持って育成し、社会に輩出することだ」と考えています。その意味で信州大学医学部では、患者さんは「100年生きる地球人である」との視点に立って、医学や医療に対する社会的要請を常に頭に置き医学教育の改革を積極的に行っています。すなわち、病気の治療だけでなく、病気の予防からリハビリテーション、介護までを一貫した人間科学教育を実践しています。さらに患者さんは「心に串のささった」方々であり、語り言葉の裏側に潜む不安にまで心配りのできる医療人の育成を目指しています。患者さんの人権や生命の尊敬、倫理にまで配慮のできる豊かな人間性、深い教養、高い倫理性を身につける医学教育にも工夫をこらしています。


●豊かな創造性をはぐくむ大学院教育の充実
学問存立の基盤は創造性にあって、医学教育としてもその埓外ではありません。ですから卒前・卒後医学教育も、創造的な雰囲気のもとに行なわれてこそ、真に実り豊かなものとなり得ると確信しています。活発な創造的活動を欠くところに魅力ある医療機関は存在し得ないといっても過言ではありません。
信州大学医学部では、その為に個性を伸ばし、その創造的研究を国際的批判に耐えうるまで研ぎすますために大学院医学研究科の重点的整備に最大限の努力を傾注してきました。現在、大学院医学研究科博士課程は二つの独立専攻を持っています。一つは臓器移植細胞工学医科学系専攻で、移植医学、再生医学、ヒト胎性幹(ES)細胞研究、人工臓器開発など脳死・生体肝移植や骨髄移植のような最先端医療を支える高度な研究・教育を行っています。もう一つは加齢適応医科学系専攻で、長寿県信州の地域性を十分に生かし、高齢化社会における疾病予防や健康増進の視点で、先端医科学を駆使して生体の加齢変化に適応するための研究、教育を進めています。
さらに2002年(平成14年)から大学院に医科学専攻の修士課程を設置して、医学と境界をなす学部の卒業生を対象に、心とからだを結ぶ人間科学を柱に高度な教育、研究も開始しています。
信州大学医学部は、北アルプスの麓、自然豊かな松本市にあります。松本市は岳都、学都、楽都と自称しているように、山岳・学問・芸術都市としての整備を計っています。この望ましい環境のもとで、医学医療に対して高い目的意識を持ち、「人が好き」と言えるような方々にわが医学部に入学してほしいと思います。ぜひ信州大学医学部にチャレンジしてみて下さい。大いに期待しています。
[蛍雪時代 2003年10月号別冊「医・歯学部の総合的研究」より 抜粋]

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