信州大学工学部サイト


有機エレクトロニクス+誘電体工学+ナノ材料の融合


新機能ナノ分子材料・デバイスで環境に優しい

高性能をキーワードに電気電子工学の技術革新を目指す



信州大学 工学部 電子情報システム工学科 ナノ分子エレクトロニクス 伊東研究室

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 研究概要

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【研究内容】

 伊東研では極薄の機能性誘電体薄膜, 有機半導体分子, 金属ナノ材料などの様々なナノス
ケールのナノ分子エレクトロニクス関連の機能材料を用いて新しい太陽電池、発光デバイ
ス、 センサ、コンデンサや薄膜トランジスタなどの高性能化や作製・評価技術に関する基
礎的研究を行っています。

・薄膜太陽電池

 有機薄膜太陽電池やハイブリッド型薄膜太陽電池(有機無機ペロブスカイト太陽電池)
などの新規構造の検討や高性能化

ハイブリッド有機系発光ダイオード
 逆型(及び順型)有機発光ダイオード(通称:有機EL or OLED)の高性能化と電気的特性解析や
ナノ界面の制御と評価(高性能化を目指して)

ハイブリッドセンサ
 カーボンナノチューブとポリイミドを組み合わせた超高速・高感度な湿度センサ、アセトン・アルコー
ル検出高感度センサ(環境及びヘルスケア)、及びその計測システム開発

・極薄誘電体薄膜と塗布型有機トランジスタ
 High-k絶縁膜形成技術から高分子絶縁材料を用いた高性能絶縁層(コンデンサ)の研究

ナノハイブリッド電極形成技術を活かした塗布型トランジスタの評価・開発

1) マイクロ発電/省エネ技術を支える光電変換デバイス
(太陽電池や有機EL)の作製と評価解析


印刷ベースの高効率有機発光ダイオード(OLED :別名 有機EL)

 有機系発光ダイオード=有機EL素子を塗布技術で作製できればコスト面で他の発光デバイスに優位に立つ
ことがが可能です。
 これまで、LEDと比べると、効率や耐久性の面で不利とされていましたが、近年開発が進んでいるりん光
材料や遅延蛍光材料等の超高効率有機発光材料の登場やデバイス積層技術により、LEDに匹敵する発光効率
(つまり省エネ)のものも報告されています。
当研究室でもオール印刷積層化技術により、(単層型に比べて)オレンジ、緑、青色OLEDの全ての素子にお
いて半分の電圧で駆動し、発光効率が10倍以上となることを確認しており、上記の超高効率有機発光材料や
素子構造の改良により実用レベルの性能が期待できます。
 また、分子レベル(厚さ 1ナノメートル(10億分の1メートル))の世界で厚さ制御した(それでいて簡
単に)酸化物や極性高分子を製膜して電子や正孔の出入りを制御する技術(バッファー層)により「逆構
造型有機発光ダイオード」は作製が簡単かつ低コストでありながら、劣化の要因となっていた不安定な陰
極用金属膜や正孔バッファー層の代わりに安定な金属及び酸化膜を上下に配置して有機半導体を挟み込ん
でがっちり守ることで耐久性と高い性能の両立が可能と期待されます。
 伊東研究室では、「厚さがわずか1ナノメートル前後の極薄の酸化物ナノシート」や「極性分子」を組み
合わせたバッファー層と高分子を均一に塗って積層する技術を開発しています。
 これにより塗って作れて理論限界に迫る(蛍光材料+通常のガラス基板では 5%)高効率な有機発光ダイオ
ードの実現に向けた作製・評価&高性能化を進めています。今後、より高性能な有機発光材料を発光層に
導入できればさらに4倍以上の高効率化も期待できます。

塗って作れて簡単=研究室レベルだけど、世界最高レベルの性能を目指す」
をキャッチフレーズに電気電子工学の立場から発光デバイス高性能化と動作原理の解明を目指していま
す。


注:照明やディスプレイによる消費電力は、オフィスビルや家庭の全電力の30%近くを占めます。
光デバイス(照明)の高効率化はもっとも身近で即効性の高い、省エネ・環境エネルギー技術とい
えます。ついにLG(韓国)や東芝(REGZA)、SONY, Panasonic と今後次々と有機ELテレビが市場に出て
くることも大きなけん引材料となると期待されます。低コスト&高性能が今後の展開の要と考えられ
ます。


 実際に研究室で作製した高効率塗布型有機EL素子 


 ナノ分子界面の制御技術により光電変換素子の大幅な性能アップを目指す!



・塗って作れて製造エネルギーを大幅に節約する有機系ハイブリッド薄膜太陽電池

有機系太陽電池には、
(1) 厚さ100nmにも満たない超薄型の有機薄膜太陽電池(バルクヘテロ接合型や積層型がある)
(2) 有機無機ハイブリッドペロブスカイト太陽電池
(3) 色素増感型太陽電池

等があり、特に(1)と(2)の太陽電池は、近年10%〜20%といったSiやCIGS系太陽電池にも匹敵するような高効率
化が進んでおり(特にハイブリッド系)、一方で製造に必要な時間とコストが桁違いに小さくなることか
ら、研究開発分野において非常にホットな分野となっています。
さらに、フィルム状にして超軽量&フレキシブルな有機ならではの応用例も報告されており、これからの10
年間で実用化が大きく進展すると期待されます。

 有機系薄膜太陽電池は日本の化学メーカや電機メーカがこぞって世界をリードして研究開発を進めてい
ます。また、伊東研で進める逆型(ペロブスカイトの世界では順型)のナノ酸化膜をバッファー層として
光生成キャリアの流れをコントロールした低温塗布形成の有機薄膜(ハイブリッド)太陽電池は高性能化
や耐久性アップに一役かう可能性があります。
また、その技術を使ってさらにハイブリッド化を進めて作製可能なペロブスカイト型太陽電池も日本発の
技術で現在、20%を超えて既に市販されているSIやCIGS等の化合物半導体の太陽電池の効率と同等か超えるよ
うな性能が報告され始めています。
 圧倒的なコストパフォーマンス(安く作れる)と低温形成のためフィルム上に塗って作って貼って使う
といった今までとは違う応用が可能となることから研究・開発業界をにぎわせていますが、実用化を目指
す際に材料開発と当研究室が得意とするナノ分子(界面)の技術がきっと役に立つと考えています。
 ペロブスカイト層に鉛(Pb)を少しとは言え配置している点は現在の大きな課題の一つですが、まずは現状
の太陽電池の課題を解決しながら、Pbフリーにつながる共同研究等に発展できれば次世代太陽電池のキラー
アイテムとしてエネルギー問題の解決の糸口となると考えられます。
(2016年度の学部4年生が伊東研究室でははじめて半年やって7%近いところまで進みました。2017年度は2倍
以上の効率アップや完全低温プロセス、課題である安定性の改善を目指します。)
 (有機薄膜太陽電池の研究を10年近く進めた感想として、このテンポは例外的で脅威の電池と認めざるを得ません...)


有機太陽電池のイメージ
(ペロブスカイトも同様の展開とさらなる高効率化を目指して研究開発が進められています)


 2016年までに有機薄膜太陽電池の効率は13%強、ペロブスカイト型は22%を超える報告がされている。


*有機、ハイブリッド薄膜太陽電池の特徴

(1) 超薄型、軽量、フレキシブル化可能
 (折りたたんだり丸められるので持ち運びが容易、貼って使える)
(2) 低温プロセス&印刷形成可能で製造エネルギーが非常に少ないエコなデバイス
   しかも、照明(可視光)に対して効率が高い
(3) カラフルで意匠性がある(デザイン的に面白い)
(4) 逆型有機発光ダイオード同様に構造次第で低コストで耐久性の向上が期待できる

*エネルギーハーベストと有機系太陽電池
 近年、「エネルギーハーベスト」という言葉が良く使われます。
 「環境発電」といった分野で良く使われますが、少し言葉が独り歩きしているようです。 
太陽光や照明光、機械の発する振動、電波、熱などを採取し電力を得る技術ですが、実際には、製造に必
要なエネルギーを回収した後でなければ真のエネルギーハーベストとは呼べません。
 その指標がエネルギーペイバックタイム(EPT)で例えば、Siの太陽電池ではシリコンの結晶化に 1000℃を
超える電気炉で加熱する必要があり、そのエネルギーを回収するには、 太陽光(屋外利用)でも2年近
く、光の弱い屋内であれば100年近くもかかります。

 ちなみに、面積当たりの身の回りのエネルギーを計算すると、それでも「光」は電磁波、振動、熱など
の100倍以上と圧倒的に豊富で、まさにエネルギーハーベストの要です。
 
 もし、製造時間と製造温度を大幅に削減して製造エネルギーを小さくできれば屋内利用や携帯利用でも
エネルギーを回収できます。

 そのキーテクノロジーが低温で塗って作れる有機系薄膜太陽電池です。
しかも、有機系太陽電池は可視光をよく吸収するので照明などの可視光下で効率が増加し、20-30%の高効率
セルも報告されています。
低温で、塗って作ることで製造時のエネルギーを桁違いに少なくすればまさに真の手軽に使える身近なエ
ネルギーハーベストとなりえます。
さらなる高効率化や耐久性、界面の問題など課題はまだ残っていていますが(だから研究し甲斐があ
る!)、そこを解決すれば一気に実用化が進むと期待されます。
 
EPTに配慮すると太陽光以外では風力や水力発電が考えられますが、どこでも誰でも使える電源とした屋内
や携帯品としての利用を考えた場合には、太陽電池はまさにうってつけです。



解析の例
・電気的特性(電流-電圧特性)、インピーダンス解析
・界面の電子構造評価
・光電変換特性(光と電気の変換効率)
・スペクトル解析
・X線回折等を用いた構造解析
・電子顕微鏡等の大型設備(共同施設)を用いた「ナノスケール」での構造解析
(研究室の設備と信州大学工学部や学外の共同大型設備を使って評価・解析を行います)






(有機薄膜太陽電池の透過型電子顕微鏡(断面TEM)像 (信州大学共同設備を利用)

新規ナノ材料と有機系太陽電池を組合わせて、さらなる高性能化や低温・塗布プロセスを用いた環境エネ
ルギーに配慮したデバイス開発を進めています。




2) 異種材料を組み合わせる=ハイブリッド材料を用いたセンサの開発

 カーボンナノチューブは太さが数ナノメートル、長さ1μmオーダーのひも状のカーボン材料でインク化
技術の発展により電極材としての応用が期待されています。一方、ナノサイズのひもは水(湿度)分子や
アンモニア、アルコール、アセトンなど体内から発せられる分子と比べるとそれでも非常に大きな穴を有
するのでカーボンナノチューブを印刷形成した電極と感応膜(センシング層)を組み合わせることができ
れば電気的に信号検出するセンサデバイスとしての応用が期待できます。
 伊東研究室では、カーボンナノチューブとポリイミドを組み合わせた圧倒的パフォーマンスの高速・高
感度容量型湿度センサや、金属ナノ粒子やナノ構造を有する新規昨日材料を組み合わせて、健康を支える
ヘルスケア用途に向けたセンサの開発を行っています。
また、その計測システムの開発も並行して進めている。



湿度センサの変遷(進化)とカーボンナノチューブのSEM像
(伊東研では、現在最速とされる湿度センサよりもさらに10倍以上も速い0.1秒以下で応答可能な超高速湿度
センサやヘルスケア用途の新機能センサの超高感度化に焦点を置いた新材料開発を進めている)


有機系の柔らかさを活かして指の動きを電気的にとらえる伸び縮み(モーション)センサ



3)極薄誘電体薄膜と塗布型有機トランジスタ

伊東研の前身は誘電体薄膜の作製と評価・解析(特に界面現象)です。
電気電子工学材料は電気を流す度合いを決める「導体」、「半導体」、「絶縁体」で大別されこの組み合
わせによって電気の流れがコントロールされる。
「絶縁体」は材料面からは「誘電体」とも呼ばれ、誘電率が2程度の低誘電率材料から20を超える高誘電率
材料まで様々なものがあり、用途に応じて使い分けられている。
全ての固体材料にはエネルギーギャップという概念があり、有限の大きさを持つので伝導帯や価電子帯の
位置や厚さを制御したり、組み合わせる半導体や導体を変えることで、キャリアが注入されると絶縁体か
ら半導体的ふるまいに変わります。
半導体や導体と接触した際の電位障壁(バリアの高さ)を十分に大きくすれば絶縁層として機能し電気的
情報の記録や電気エネルギーの蓄積、電流の遮断に利用できるが、配置によっては電子は通すが正孔は通
さなかったり、その逆の特性を持つバッファー層としても機能します。


誘電体薄膜と何かを組み合わせた新しい展開を目指したのが有機トランジスタやセンサの研究であり、
誘電体薄膜のうち電子や正孔の輸送性を有するものと発光材料を非常に薄くして組み合わせて電極近傍
(界面)で電子や正孔の出入りをコントロールして電流を流れやすくしたのが有機EL、その知見をもとに光
を良く吸収する材料に展開して発電できるようにしたり電気を流しやすい(キャリアを取り出し易い)構
造に改良していったのが有機系の薄膜太陽電池で現在に至っています。
 つまり、一見、全く異なるデバイスが実は「機能性の誘電体薄膜材料」から発展的に枝分かれして今日
に至っており、材料科学の立場からさかのぼると本流ではすべてつながっています。
(電気を流す、ためる(止める)、別の形態に変換する この全てが組み合わせ次第で変わる)

高分子絶縁材料(低誘電率誘電体)はフィルムコンデンサや集積回路の層間絶縁層、レジスト材料等の分
野で実用化されており、高誘電率と優れた電気絶縁性能を有するHigh-k材料は集積回路用トランジスタのゲ
ート絶縁層や今は高周波用途の携帯電子機器になくてはならないセラミックコンデンサ等に実用化されて
おり、一見地味だが、電子部品・材料の分野で最も堅実かつ重要な技術の柱です。
伊東研では、これらの薄膜絶縁材料の低温(300℃以下)プロセスでの作製(改良やさらなる薄膜化)・評
価とそれをゲート絶縁層とした塗布型有機トランジスタの開発研究を行っている。
これらの研究は、一見地味なようですが実用上は無くてはならない最も重要な技術分野と言えます。



4) 新材料の探索とエレクトロニクス応用

近年、材料化学分野を中心に優れた材料が次々と合成されています。
21世紀における有機太陽電池や有機EL素子であったり、無機のLED、薄膜太陽電池、センサ等の台頭は、材
料化学の発展にけん引されたことは言うまでもありません。
優れた材料を持っていても、積層化などデバイス設計や、ロスの原因となる解析がなければ性能の10分
の1も引き出せないなんてことは非常によくありますし、その材料の用途を明らかにすることが実用化の
鍵となります。

現在、この分野をけん引するのは下図に示すような「ナノ分子材料」の開発と発展によるところが大きく
これらの材料がさらなる発展を遂げれば将来的(21世紀半ば以降?)には分子一つ一つで「ダイオード」、
「トランジスタ」、「スイッチ」、「メモリー」、「エネルギー変換」といった機能が引き出せると期待
されています。そうすれば、Siに代わる次世代コンピューターやその周辺機器が全てナノ分子材料に置き換
わるかもしれませんし、有機ELや太陽電池、センサといった応用分野ではもっと早い段階で大きなブレーク
スルーが訪れると考えられます。


本研究室は電気系の研究室ですので、材料合成の面で化学の専門家と勝負するよりは、仲よく共同研究等
を進めながら、新材料を探索し、そのポテンシャルを活かして、太陽電池、トランジスタ、有機EL、センサ
などのエレクトロニクスに展開する研究を行うことを目指しています。




*ナノ材料の例(化学の知識はあるに越したことは無いがそれほど無い人でも、ちょっと勉強して扱い方
や材料名の見方さえちゃんとできれば意外と有機エレクトロニクスデバイスは作れます)
 むしろ、物理(特に電気的特性)の面で研究を行っています。


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