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植物−微生物共生を
分子から生態まで

研究内容RESEARCHES



生物の共生機能を活用した持続的生産・環境保全に寄与する基礎および応用研究


近い将来、良質なリン鉱石は枯渇すると予想され、リン鉱石の主要産出国である米国はリン鉱石の輸出を規制しており、リン酸は国際的な戦略物資となっています。リン資源を輸入に依存してきた日本にとって、農業生産に深刻な打撃を与えかねない状況です。持続的な農業生産のためにはリン資源を再利用するとともに効率的な利用が求められています。


アーバスキュラー菌根菌は植物の根に共生する糸状菌で、イネ科・マメ科を含む多くの植物のリン酸栄養改善に寄与していることが知られています。私たち は共生微生物を介したリン酸資源の効率的利用を目指し、アーバスキュラー菌根のリン酸獲得機構や共生成立機構の解明から菌根共生の農業への利用について取組んでいます。



共生を評価する −菌根の養分輸送メカニズム−


アーバスキュラー菌根菌は土壌中に菌糸を広げ、植物の根が届かない場所からリン酸を吸収し植物に供給しています。植物からは光合成産物に由来する糖類や脂質が菌根菌に送られて、生体の構成やエネルギー源として利用されて、相利共生が成り立っています。菌根を介したリン酸輸送は菌根共生の最も重要な機能です。私たちはリン酸輸送機構を遺伝子・細胞レベルで解析することで基礎的知見を得るとともに、将来的には圃場レベルで菌根の機能を評価する指標を構築することを目指しています。



菌根におけるリン酸輸送で重要な分子がポリリン酸です。菌根菌は土壌からリン酸を吸収すると素早くポリリン酸という物質を合成し、液胞や細胞壁に送ります。ポリリン酸はリン酸の重合体であり、管状の液胞に蓄積することで効率よくリン酸を輸送していると考えられています。私たちは菌根菌のポリリン酸に着目し、ポリリン酸がどのように運ばれて、最終的に植物にリン酸としてどのように渡されているか解析しています。

取組んでいる課題
・ 蛍光顕微鏡や電子顕微鏡観察によるリン酸輸送に関わるオルガネラの特定 (菌側)
・ リン酸の貯蔵・輸送形態と考えられているポリリン酸の局在解析 (菌側)
・ 菌根特異的なリン酸代謝遺伝子の同定と機能解析 (植物側)



共生を制御する −菌根形成の分子基盤−


菌根・根粒共生系はその形成過程を制御する植物側および菌側の因子群によって構成されています。マメ科のモデル植物であるミヤコグサ(Lotus japonicus) では、菌根形成と根粒形成の両者が破綻した共生変異体がこれまで6遺伝子座報告されています。それらを用いて共生に関わる宿主因子群の研究が進められてい ます。私たちは、菌根・根粒共生を支える宿主因子群の一端を分子レベルで解明するため、ミヤコグサから単離された共生変異体nup85や新規共生変異体の機能解析を行っています。

また近年、アーバスキュラー菌根菌は自分では脂肪酸を合成できないことが明らかとなってきました。我々はトランスクリプトーム解析から植物が菌根菌に脂肪酸を提供し、菌根共生を制御している可能性を見出しました。

取組んでいる課題
・ 植物の脂肪酸代謝遺伝子の発現と菌根共生の制御の関係
・ 新規共生変異体の原因遺伝子の同定と機能解析




共生を利用する −作物生産・環境修復への菌根の応用−


日本では畜産経営の急速な規模拡大とともに輸入粗飼料や濃厚飼料への依存度が増大し、自給率低下による食料安全保障の問題や家畜の糞尿処理の問題が顕在化しています。

草地生態系は「土‐草‐家畜」という言葉に代表されるように、物質循環によって支えられており、生物生産はこの物質循環の中で行われています。そのため土地に立脚した生産を行うには、物質循環の理解が重要となります。

私たちは特に、資源の枯渇が心配されているリンに注目し、黒ボク土壌に立地する草地生態系について、菌根を介したリン循環の評価を進めていきたいと考えています。

最近、私たちは菌根菌の資材開発に取り組んでいます。絶対共生微生物であるアーバスキュラー菌根菌を効率的に生産する方法を検討しています。

取組んでいる課題
・ アーバスキュラー菌根菌接種資材の開発
・ リン循環の評価法の検討


土壌生物学研究室

〒399-4598
長野県上伊那郡南箕輪村8304
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