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2024.05.08
研究課題名
セルロースナノファイバー(CNF)を用いた高透水性水処理用RO膜および農業資材の開発

参加研究者

信州大学(先鋭材料研究所・工学部)特別栄誉教授 遠藤守信

研究のポイント・成果等

◯ 信州大学では、セルロースナノファイバー(CNF)を用いて、革新的な極超低圧で駆動する超高透水性RO膜および廃プラリサイクルを実現した農業資材をそれぞれ開発に成功しました。

研究内容
図1  セルロースナノファイバーは我が国で開発された森林資源由来の先端素材である。今後の広範な用途発展が期待されるが、有望な応用技術の開発が特に重要であります。これによってCNFの付加価値が向上し、もって森林資源などの原材料の重要性も高まり農林水産業の持続可能性に貢献できます。そしてその応用分野の一つにCNFを用いた先進複合材料があります。ここではCNFを複合材のフィラーに応用し、マトリクスにはゴム、リサイクルプラスチックを採用して高機能性ゴム、各種農業資材を開発しました(図1, ②)。その応用は、トラクター用のゴムベルト、農機用タイヤ、各種農業資材で成果を得ました。
 またCNFから得られるCM化CNFを用いて架橋芳香族ポリアミドと複合化してRO膜を調製し、革新的浄水用RO膜を得ました(図1, ①)。このCM化CNFは、食品用添加剤として長い歴史を持つCMC(カルボキシメチルセルロース)と同じ化学構造を持つもので食品や化粧品などの用途で使用されているものです。
 CNFの有用な用途開拓で間伐材や農業残渣の活用が広がり、例えばトマト茎等の農業廃棄物は焼却され処理されますが、その経費は30円/kg程度で、我が国でも百億円以上の高額になります。これは、またCO2排出増加にもつながります。このトマトの茎のCNF化にも成功しました。さらに、CNF原料として海藻やその残渣等の活用を検討し、それらの有用性もさらに拡大できました。CNFの有効活用とその成果を農林水産分野へフィードバックすることで農林水産業の持続的発展に貢献できます。ここでの成果は次のようにまとめられます。
図2
1)まず、CM化CNFと架橋芳香族ポリアミドとの複合膜によってPOU(浄水器)用として革新的機能のRO(逆浸透)膜の成果について示します。この先進的RO膜は、①セルロースナノファイバーの有用な用途展開、②開発RO膜を用いての高性能浄水器、農業生産物の高度化、陸上養殖への応用に資するものであります。これらにより当該膜は、農林水産分野への貢献は多大です。このCM化CNF/PA複合膜の構造と機能は、図2(a)のようにPA活性膜中にフィラーのCNFが効果的に配置され、これまでのRO膜と異なり0.2MPaの極超低圧で駆動し(図2(b))、かつ世界最高性能の透水機能を有する優れた性能を持っています。ファウラントと称される水中の不純物が膜表面を覆って透水機能の劣化を抑える耐ファウリング性も保持し、塩素水にも卓越的な耐性も持っています。これをモジュール化してPOU用として無電源の浄水器として優れた機能が発揮でき、タイ王国バンコック市等アジア諸国で現地評価も行って優れた機能を実証しました。またジュース等の高付加価値食品製造、陸上養殖における水浄システム等、広範な用途(図2(c))が期待されます。
図3
2)農業現場で用いられている様々な樹脂フィルムは、一般に繰り返し使用が困難で、これによる生産コスト増、農業廃棄物増大が問題とされます。また、農業用の廃棄プラスチック使用容器(PE, PP)は一般に塗装や印刷性が困難、低強度の課題が指摘されています。高強度を有するCNFをそれら樹脂に最適化して複合することで強度、塗装性向上を実現できました。それによって繰り返し使用も可能になり、生産コストの低減も期待できます。マトリクスをゴムにすることで農機具等への応用が有望です。さらに、トマトの葉・茎などの農業生産物残渣は、腐敗しにくく廃棄が困難で前述したようにその処理コストが問題となっています。その農業残渣の有効活用として、それらを出発原料にして高品質のCNFを調製することにも成功しています(図3)。
 以上のように農林水産物由来のCNFの調製、諸利用の促進等で同分野に広範に貢献できます。信州大学は、これらの成果の早期、着実な社会実装に向けて関連企業、農業団体、自治体、大学等と連携して研究開発を進めて参ります。

連絡先

信州大学先鋭材料研究所
TEL:026-269-5656
Mail : s_uda@shinshu-u.ac.jp