研究ユニット紹介


研究テーマ
究極の安全性を持つ「水系電池」の開発
現在、私たちの生活を支えるリチウムイオン電池は、高いエネルギー密度を誇りながらも、有機溶媒を電解液として用いるために「発火性」という安全上の課題を抱えています。特に電気自動車や定置型電源のように大容量化が進む分野では、一度事故が起これば社会的な影響が極めて大きいため、安全性と信頼性を兼ね備えた次世代電池の開発が強く求められています。
そこで私たちは、可燃性の有機溶媒ではなく「水系電解液」を利用した新しい電池の開発に挑戦しています。水は本来、分解電圧が低いために電池の作動電圧を制限してしまうという欠点があります。しかし近年、「濃厚電解液(Water-in-Salt Electrolyte)」と呼ばれる特殊な組成を用いることで、水の安定な電位窓を拡大できることが明らかになり、3V級という従来の水系電池では不可能とされてきた高電圧作動が現実味を帯びてきました。これにより、発火のリスクを大幅に低減しながら、従来型リチウムイオン電池に匹敵する高エネルギー密度を実現できる可能性が拓かれています。
さらに本研究の大きな特徴は、「ハイエントロピー酸化物電極」との組み合わせにあります。ハイエントロピー材料とは、複数の元素をほぼ等しい割合で組み合わせることで、従来材料にはない安定性や多様な機能を引き出す革新的な設計思想です。私たちはこのコンセプトを酸化物電極に応用し、イオンの出入りに伴う構造変化を抑制しながら、長期にわたって安定した充放電サイクルを可能にすることを目指しています。これにより、単なる「安全な電池」というだけでなく、信頼性・耐久性にも優れた全く新しいエネルギー貯蔵デバイスの実現が期待できます。
本研究の目的は、①発火の危険性が極めて低い安全な電池を社会に提供すること、②長期使用にも耐えうる高い信頼性を確立すること、そして③再生可能エネルギーの普及や次世代モビリティの実用化を支える基盤技術を創出することにあります。水系電解液とハイエントロピー酸化物電極の融合は、まだ世界的にも例の少ない挑戦的な試みであり、学術的な新規性と社会的な意義を兼ね備えています。
私たちはこの研究を通じて、安全・安心で持続可能なエネルギー社会の実現に貢献したいと考えています。
研究内容について
ハイエントロピー化合物
多元混晶化にともなう副格子の乱雑性による準安定相の安定化を指導原理とする,新しい蓄電界面接合技術の開発に取り組む。特に界面についてあり得る全ての配座,もしくは相互作用を及ぼしあう原子の相対位置に対応するギブス自由エネルギーと蓄電界面のイオンダイナミクスとの相関性を明らかにする。最終ゴールは,単純混合則では表現できない物性発現を制御するための基盤技術の構築。

複合アニオン化合物
異種アニオン導入によって生まれる特徴的な効果(配位子場の強弱による大きな結晶場分裂)の設計により,異相界面および固体内部の電子的・イオン的相互作用を自在制御する。独自開発した合成技術により,アニオン種の局所配置や傾斜組成構造を実現。最終ゴールは,電極/電気二重層/拡散二重層界面に形成される相関イオン拡散エネルギーランドスケープの可視化と自在制御技術の確立。

分子ゲート効果
蓄電固液界面に機能性分子層を挿入することにより,特性の分子だけに高い透過性をもたらす「分子ゲート効果」が発現する。電解液の分解反応を抑制し,可動イオンのみを選択的に透過することができる。その他,溶媒和イオンの特異吸着や電解液界面のイオン濃度の濃化などにより,界面におけるイオン交換反応効率を高めることで,電池の急速充放電を可能にする。最終ゴールは,材料技術と分子技術を融合した界面設計により,相間拡散イオンダイナミクスを自在制御するための基盤分子技術の構築。

所属研究者一覧

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研究代表者(PI)
是津 信行教授

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是津ユニット
Tien Quang Nguyen准教授

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是津ユニット
清水 洋特任教授