研究ユニット紹介


研究テーマ
"水系"化学反応で満ちた細胞フラスコで 生理活性物質や生分解性バイオプラスチックを創る
“水の惑星”地球に生命体が誕生したのは、奇跡といえよう。生命システムは、水分子に満ちた細胞によって構成されている。細胞は、ゲノム上にコードされた生体触媒(酵素群)が司る水系での化学反応のフラスコともいえる。実は、この細胞フラスコを使って、医農薬品や化学品素材など多種多様な有用物質を創出することが可能であり、「合成生物学」と云われている。我々は、合成生物学的アプローチによってオリジナルの有用物質を再生可能な資源から作り出すバイオ・化学プロセスの開発を行っている。たとえば、細胞フラスコ内で生分解性バイオプラスチックを再生可能資源から創っている。二酸化炭素を起点に創製されるバイオプラスチックは、河川・海洋中で分解可能な環境循環材料である。巨大なプラスチック産業のもたらした負の遺産(地球の温暖化・汚染)を、プラスに転じる地球医療に貢献する。
研究内容について
環境循環型バイオプラスチック「LAHB」の創製
現在、プラスチックごみによる環境汚染は国境を越えて拡大し、2050年には海中プラスチックが魚の総重量を上回ると予測されている。特にアジア太平洋地域では、漁業・養殖業・観光業に年間約10億ドル規模の経済損失をもたらしている。また、マイクロプラスチック汚染は世界中の水道水の約8割で検出されており、私たちは1週間で平均5グラム(クレジットカード1枚分)を体内に取り込んでいるという試算もある。
このように深刻化するプラスチック問題に対して、我々が開発した LAHB が新たな解決策となる。LAHBは乳酸(LA)と3-ヒドロキシ酪酸(3HB)からなる新しいバイオポリマーで、植物由来の糖を原料に微生物の力で合成される持続可能な素材である。従来のポリ乳酸がコンポスト環境など限られた場でしか十分に生分解されないのに対し、LAHBは海洋を含む多様な環境で自然に分解されることが特長である。特に分解が起こりにくい深海でもその分解性が確認されており、まさに「真に自然に還るプラスチック」として、海洋プラスチックごみやマイクロプラスチック汚染に対する持続可能な代替素材となり得る。

「LAHB」がポリ乳酸の弱点を改善
世界で最も生産されているバイオベースポリマーはポリ乳酸(PLA)であり、カーボンニュートラルな素材としてその生産量は年々増加している。一方で、PLAには「硬くてもろい」「成型加工が難しい」といった物性上の課題があり、応用の幅を制限してきた。また、近年では自然環境中、特に海洋などでほとんど分解されないことも問題視されている。我々はLAHBが、このPLAの弱点を補うモディファイヤー(改質剤)として機能することを明らかにした。PLAにごく少量のLAHBを加えるだけで、成型加工のしやすさや耐衝撃性が向上し、さらに海洋における分解性が発揮した。この成果は「PLAは海では分解されない」という従来の常識を覆すものであり、PLAをより強靭で、かつ環境調和的な素材へと進化させるブレークスルーといえる。バイオポリマーの長男としてのPLAと次世代のバイオポリマーLAHBを組み合わせた新しいバイオプラスチックは、環境負荷の低減と利便性の両立を実現し、持続可能な循環型社会の実現に大きく貢献する。

所属研究者一覧

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研究代表者(PI)
田口 精一教授(特定雇用)
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高 相昊助教
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中内 宙弥特任助教