06関節駆動技術膝関節は回転軸が移動し股関節は多軸機能であるため、体内で骨に固定すると全く動きません。プロトタイプでは膝関節に機能が落ちた筋の代用としてワイヤで牽引するワイヤ式を採用しました。股関節の複雑な動きを多軸廻りの回転の複合として扱うスライド式を検討していきます。体内外通信機能現在のプロトタイプにこの機能はありませんが、体内に埋め込まれるため、ワイヤレスで体外と通信する必要があります。やがて送受信機を埋め込み、対外から電源や制御系を操作する一方で体内からデータを収集、故障を発見するなどの機能が求められています。Concept Prototype私は、口腔外科領域や整形外科領域の怪我や疾患について、コンピュータシミュレーションを用いて力学的な視点からの検討を行っています。特に、患者さんの骨組織の力学状態を解析することにより、整形外科領域の新しい治療方法を考案、疾患の原因を解明したいと考えています。本プロジェクトリーダー、齋藤教授から「体内に埋入したデバイスを駆動したときの骨の力学状態を調べて欲しい」との話をいただいた頃、当時構想されていたデバイスは、curara®の機構をそのまま体内に埋め込むイメージでした。しかし膝関節を詳細に観察すると、蝶番のように一つの軸で回転するだけではなく、関節面が回転しながらスライドする、という複雑な動きをしていることが分かります。curara®は、一つの軸で回転するモータを、体外にゆるやかに装着するのですが、このような複雑な動きをする膝関節に対して、一軸で回転するデバイスを骨にがっちりと装着すると、間違いなく関節が壊れてしまいます。こうした問題点を解決するいくつかのアイデアが挙がり、今回作成したプロトタイプでは左写真で解説するワイヤ方式を採用しました。これは、我々の関節が「筋が腱を牽引して駆動している」ことに基づいています。筋肉の駆動が不十分な患者さんの動作をアシストする手段として筋肉の駆動方式をまねているワイヤ方式は、非常に理想的であると考えています。筋肉が出力できる力や速度は非常に大きなもので、人工的にこれを再現することは現時点では難しく、今回試作したアクチュエータでは歩行に必要な筋力の100%を賄うことはできないため、あくまで高齢者の歩行をアシストする用途になります。我々のチームが開発した今回のデバイスに対し、その動作や制御の検証は橋本研究室と大学発ベンチャーAssistMotion(株)の皆さんが取り組んでくださいました。ワイヤ方式の場合には検知できる力の大きさや関節の途中でワイヤに加わる抵抗力の考慮など、curara®に比べて大幅に考慮すべき事案が多かったと聞いています。また、今後の難関でもある股関節への対応では、モータの回転軸を股関節の回転中心に対して移動可能なスライド方式を考案しました(図)。股関節は屈曲・伸展という身体の前後方向の大きな動きに加えて、内旋・外旋、内転・外転という3つの軸に対する回転運動ができる関節(機械工学ではボールジョイントと呼ぶ)であるからです。現時点では、屈曲・伸展だけはモータによるアシストを可能とし(アクティブ)、内外旋と内外転については生体の動きに追従できる仕組み(パッシブ)を考えていますが、既存のデバイスでは大型化してしまいます。現状では平面的な超音波モータを立体的にしたような新しいデバイスが実用化されると、サイボーグ用途にも期待できるのでは、と考えています。デバイスの高性能化などまだ解決すべき課題は多々残されており、実用化にはまだ道半ば。さらに多くの分野の研究者の参入が必要と思われます。信州大学が得意とする医工連携テーマで一丸となって取り組み、今後も開発が発展することを願っています。膝関節デバイスをワイヤ方式とした背景と利点股関節への展開方法など見えてきた今後の課題小関 道彦学術研究院(繊維学系)教授繊維学部(機械・ロボット学科バイオエンジニアリングコース)こせきみちひこ信大らしい医工連携融合研究で埋込型の実用化も夢じゃないところまで来た。埋込型」コンセプトプロトタイプ完成きた10年後の未来。 ロジェクトはついに埋込型ロボットのコンセプトプロトタイプを発表。そこから見える未来シナリオを紹介(図)スライド式のイメージ。関節の動きを多軸廻りの回転の複合として扱う。歩行アシストサイボーグプロジェクト5年間の軌跡
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