低環境負荷の中で結晶材料を作る「フラックス法」により、高品質の結晶「信大クリスタル」が誕生しました。この方法で幅広い結晶材料を作ることができます。水処理では無機イオン交換体の中で「アニオン」と「カチオン」を除去することを目標にしています。有害カチオン除去に関しては、重金属イオン(特に鉛イオンやカドミウムイオン等)が問題となるので、チタン酸塩化合物によって重金属イオンを吸着除去する材料をデザインしました。具体的には、フラックス法で作製した層状チタン酸ナトリウム結晶を用い、結晶構造に含まれるナトリウムイオンとさまざまな重金属イオンを交換することで、水中に含まれる重金属イオンをほぼ100%除去できます。世界に目を向けるとフッ素、硝酸・亜硝酸、ヒ素等のアニオンによる汚染問題も深刻です。安全な水の供給を目指し、アフリカの地下水に多く含まれるフッ素の除去にも新しい材料を求めています。有害アニオン除去に関しては、層状複水酸化物(LDHs)を陰イオン交換体に用い、その特性を評価しています。このうち、マグネシウム・アルミニウム系のLDHsでフッ化物イオンをほぼ除去できることがわかりました。アフリカの鉛・フッ素問題については、簡易ボトルで重金属イオンを除去し、大型バッグをタンクに入れてフッ素を除去するという実証試験が始まっています。さらに、フッ素吸着剤を投入した水に出てくる塩化物イオンを活用して、簡易除菌を可能にするデバイスの試作も始まっています。農業、工業、産業、生活に資する水を提供する仕組みを作る活動を開始しているところです。水の問題に対する新しいアプローチとして「表面重合膜」というナノろ過(NF)膜があります。孔の大きさを変えられ、水処理やバイオメディカルユースなどが期待できる新しい荷電膜です。新しい薄膜としての機能をデモンストレーションしているところです。フッ素汚染への対応については、2018年からタンザニアで活動をはじめましたが、フッ素濃度を計測するデバイスがあるものの非常に高価。そのため、どこでも計測できて安全確認が可能なものを作りたいと考えています。ICTを使ってデータを収集し、スマホで安全情報を提供しようというものです。また、オーガニックコットンの表面を処理した、有機と無機のハイブリッド材料を使い、ブラックライトでフッ素を検出できる材料を作りました。フッ素濃度を検出できる布、デバイス、スマホアプリなど、現地の人が簡単に水の危険度を調べ、共有できる方法を検討しています。アフリカ・タンザニアのメルー山流域の地下水、表流水は、自然由来の高濃度のフッ素で汚染されています。COIで開発したフッ素吸着除去とフッ素センサーのシステムをすべての水源に導入すれば安全な飲料水に変えることができます。センサーを使うことで飲料水のフッ素情報を収集・集約できるので、新たな水資源管理システムが可能になります。フッ素除去システムは末端に設置し飲料水、食料水のみ浄化する仕組みにすることが効率的。例えば学校の給水タンクに除去システムを導入できれば、学校が安全な水の供給センターとフッ素教育の場になり、水汲みの労力も軽減することができます。フッ素汚染の問題は、SDGs目標6.1の中でどう位置付けられているでしょうか。3つの指標、「アクセス時間」「入手可能性」「水質」を全て満たしたとき安全な水へのアクセスは達成されたとみなされます。ただ、水利用という部分目的を最適化すると、水環境全体にとって必ずしも良い結果とならないことに留意が必要です。例えば都市の用水として河川から大量の水を取っていくと生態系に悪影響を与えるといったことです。その問題を解決するのが「統合水資源マネジメント」。水利用と環境を統合し、計画を作って実行するという取り組みで、全体の最適化になるかを統合的に検討するアプローチです。どこで折り合いをつけるのかは、地域の社会経済を考慮した上で地域住民が決定するしかありません。また、水問題の解決を検討するときにどの技術を適用するか。「便益」「費用」「リスク」を踏まえて、最後は地域住民が話し合いで決めていくことになります。タンザニアでは、村落の人口が増加しています。これを踏まえ、技術をどうあてはめてSDGs 6.1に貢献できるかを考えていく必要があります。水の大循環を3次元的に捉え、水がいろいろな形で循環している様子を大気・海洋・地表面・地下まで表してみようとしています。動態をシミュレーションすることで、水の収支、降水、地表からどのくらい海へ流れるのか、上下水道にどれだけ使われるのか-といった流れ図を描くことができます。大循環モデルによって時限的な水の変化も捉えようとしています。対象とする時代は1975年、2005年、2050年。時間的な変化と自然の変化をとらえてシミュレーションができれば、これから私たちが行う施策がどんな変化をもたらすのか、という予測と施策の選定が可能になります。テストシミュレーションの結果、地下の水の状態とそれが支える地表面の水の状態は、大気や海洋に大きな影響を与えていることが分かりました。シミュレーションをさらに発展させ2050年の予測シミュレーションに向けて準備しています。水循環の動態をあらわにし、首都圏の水循環グランドデザイン、グリーンインフラストラクチャ基盤の整備に提言したいと考えています。~環境にやさしい水処理技術でSDGsに貢献“社会を変える!”~ 全体システムの最適化に取り組む、プロジェクト最終年へアクア・イノベーション拠点(COI) 第8回シンポジウム(オンライン) エメラルドウォーター:SDGsへの信大クリスタルの挑戦サステナブル水質分析・膜分離手法の提案タンザニアのフッ素汚染水源の分布とフッ素センサーが拓く未来SDGs目標6.1安全な飲料水へのアクセス達成にむけて研究概況報告②13「新しい水処理技術と水環境改善」サブ研究リーダー/信州大学教授 手嶋 勝弥サブ研究リーダー/信州大学教授 木村 睦信州大学教授 吉谷 純一信州大学教授 中屋 眞司COI-S概況報告COI-S研究リーダー/海洋研究開発機構 高橋 桂子「水大循環のこれまでとこれから―サテライトの取り組みと成果―」
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