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膜を使った海水淡水化技術により、現在多くの地域で飲料水や産業用、農業用の水が製造されており、その日量は約6500万トンに達します。材料製造や施設の運用に関わるCO₂の排出、海洋水の処理に用いる化学薬品などを最小限にして環境負荷を少なくすることが強く求められています。ポリアミドにさまざまなナノ物質を複合して新しい膜を作ろうとしていますが、カーボンナノチューブを重量比で10~15%入れた膜は、水がよく通り耐塩素性が強くなりました。膜の中のカーボンナノチューブとポリアミド間で電荷移動が起き、膜の表面に弱い電荷を持つことで、表面に「界面水」ができてファウラント(目詰まりの原因物質)がつきにくいことも確認しています。モジュール評価試験では、2インチモジュールの脱塩率、透水性において市販のモジュールと同等の性能が得られています。ファウラントもほとんどつきません。海水淡水化には次亜塩素酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、凝集剤、硫酸などが必要ですが、膜の高いロバスト性(外因に影響されにくい性質)により、こうした薬剤をほとんど使わずに済みます。海洋に放出されている薬剤が、数十分の1まで減少できるでしょう。また、カーボンナノチューブの代わりに木材などから作るセルロースナノファイバーをポリアミドに入れると、非常に水の流れやすい膜ができますが、この複合膜も塩素にも強いことが分かりました。2インチのモジュールをセルロースナノファイバー入りで作り、米国製膜モジュールと比べると約2倍の水が流れます。また二価イオン排除率も市販品を上回りました。このほかセルロースナノファイバーとカーボンナノチューブを組み合わせ、ポリアミドと複合膜を作ることによって工業用の超純水製造に有用な膜ができました。現状の膜に比べて透水性がよく、イオンなど不純物が除去できるものです。これまでの研究で膜の知見が蓄積し、また研究成果も多岐にわたり、生活から製造業、健康、創薬、環境分野での新規開発膜の応用開発と社会実装に向けて関連企業との連携に一層の加速度をつけてまいります。地球上で利用可能な淡水はわずか0.01%しかありません。社会の発展や人口増によって今後も水の需要は増大し続けます。淡水化施設の設備容量は2030年までにほぼ倍増しますが、その多くは中東諸国向け。温暖化・海面上昇などを背景に、島しょ国での淡水化ニーズも増大していくでしょう。環境保全の必要性から、少ないリソースでの安定的な淡水化や環境資源の保護につながる設備が求められてきます。このため、省エネだけでなく薬剤や廃棄物の削減、土地資源の確保に貢献する環境調和型の淡水化設備をめざします。一般的な海水淡水化の施設は、中核のRO設備と海水中の汚れの原因物質を取り除く前処理設備、それを効率化する薬品注入設備、RO膜の汚れを洗浄するCIP設備があります。そのような設備を導入しても汚染により膜の性能が低下し、RO設備の運転の障害になりコストが増加しています。また使用した薬品や消耗品は廃棄物として環境に排出され環境負荷の増大につながっています。開発中のカーボンナノチューブ/ポリアミド複合RO膜(信大開発膜)は汚れに極めて強い特長があり、従来の前処理設備を省略することや使用薬品を減らすことをめざしています。設備がシンプルになるため運転が簡素化し、省エネやCO₂削減にも寄与できるシステムを構築中です。また、SDGs指標とひも付け、コスト削減だけでなく社会、環境価値で貢献度を評価する仕組みを検討しています。信大開発膜の製膜技術については、基本レシピの確立を進めています。大学内の小型製膜機で1~2メートルの平膜を作製し、大型機では最大70メートルの連続製膜を検討。量産化を見据えた研究に取り組んでいます。ウォータープラザ北九州にて、信大開発膜の信頼性評価と膜汚染の抑制評価を行いました。大学での試験と合わせ、膜への汚染物質の付着が抑制できることを確認しました。今後は負荷の高い状態で実海水での運転評価を行い、信大開発膜を用いた環境調和型海水淡水化プラントを提案していきます。その実現に向け製膜、モジュール化技術を進め、社会実装を広く検討していこうとしています。12環境世紀に期待される海水淡水化膜~耐ファウリング性の発現メカニズム~CNT/PA複合RO膜モジュールの開発と社会実装13:00 開会あいさつ 濱田 州博 来賓あいさつ 林 宏行 氏、水野 正明 氏13:15 プロジェクト説明 大西 真人13:30 研究概況報告① 「Green Desalinationと低圧RO膜」 ◆遠藤 守信、手島 正吾(高度情報科学技術研究機構) ◆北村 光太郎、竹内 健司(サブ研究リーダー/信州大学准教授)、  武内 紀浩(東レ/信州大学教授) 研究概況報告② 「新しい水処理技術と水環境改善」 ◆手嶋 勝弥 ◆木村 睦、中屋 眞司 ◆吉谷 純一15:10 COI-S概況報告 高橋 桂子15:30 フリーディスカッション「信大COI研究成果の社会実装への期待」 アクア・ネクサスカーボン-プラットフォーム(AxC-PF)の活動 紹介と会員企業によるディスカッション ファシリテーター:上田 新次郎16:40 講評 斉藤 卓也 氏16:45 閉会あいさつ 中村 宗一郎研究概況報告①「Green Desalinationと低圧RO膜」研究リーダー/信州大学特別栄誉教授遠藤 守信日立製作所 北村 光太郎実海水での評価試験PROGRAM初めてのオンライン開催。配信会場の信州大学国際科学イノベーションセンターの様子。~環境にやさしい海水淡水化膜と低圧高透水RO膜~

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