(5)ポリ(ジアセトンアクリルアミド)[PDAAM]に関する最近の研究

 

 PDAAM [ (-CH2-CH(CONHC(CH3)2CH2COCH3)-)n] も私の恩師の教授の研究をいただいた例である.教授は依田直人君(平成4年修士修了,東京特殊電線(株)(長野県上田市))を指導して,DAAMと酢酸ビニルの共重合体やそれをケン化したDAAMとビニルアルコールの共重合体を合成して,それらの物性の研究を行った.これを見ていていい物だと気に入ったので研究に組み込ませていただいた次第である.

 

 第一番目に平松建也君(平成5年卒,宇部日東化成工業(株)(岐阜市))が担当した.PDAAMの最大の疑問点はガラス転移点がはっきりしないことであった.それにも関わらず,相変わらずDAAMとビニルアルコールの共重合体の物性を調べるためにDSCでガラス転移点をみるという無謀なことをやっていた.なぜか,ガラス転移をきちんと把握しておかないといけないぞということになったのは卒論もかなりせっぱ詰まってきた時期だった(私の怠慢であったのであろう).急遽PDAAMのDSCに力を入れた.最初依田君が,『PDAAMは合成してから時間が経つにつれて構造が変化してくるんです.』と,いかにも自分の合成に自信がないようなことを言っていた.私も一方で,分解性ポリマーPBEAPの研究をやっていたので,鵜呑みにしてしまって分解するのかなとぐらいに解釈してしまった.これがいけなかった.もう少し真剣に考えればよかった.平松君も『乾燥後直ちにとった場合と,しばらくおいてとった場合でDSCが違っています.』と言うものだから,何となくエンタルピー緩和かなと思った(PBPEPで平成2年に落合君と経験済み).しかし,データが一定しない.いろいろ考えた末に水分を吸っていることも関係していると気づいた.真空乾燥後大気下の室温におくと,直ちに水分を吸って行くのと同時にエンタルピー緩和を進行させていく.したがって,DSCの昇温曲線には脱水の吸熱とエンタルピー緩和に対応した独特の吸熱が重なり,解釈を非常に難しくしていた.これに気づいたのが卒論発表の数日前であった.理解できた壮快感と充実感で一種独特のいい気持ちを味わえた.しかし,他人への説得にはまだデータに改良点が必要であった.

 

 なぜか,平松君の後継者の上田(かみた)浩之君(平成6年卒,大同化成工業(株)(大阪市))には水分吸着下のエンタルピー緩和の実験をやってもらわなかった.たぶん,吸湿条件を調製するようなめんどうな実験はあとでゆっくりやろうと思ったのと,そのときはPVA関連のブレンドの研究が奇跡的にうまく行っていたので,ブレンドに心が奪われていたのが原因かもしれない.そういうことで,彼はPDAAMとナイロン6とのブレンドフィルムの研究を行った.相溶性はもちろんなかったがそれなりのフィルムができた.しかし,ブレンドに対する深い洞察力と,ブレンドする目的がはっきりしない研究であったので,ブレンドの研究として明確な方向性を打ち出せたわけではなかった.すべて私の責任である.しかし,今後それなりに発展させたい.彼の頑張りに報いるためにも.

 

 平成6年度の卒研生の松井一高君(平成9年修士修了,日本合成化学工業(株)(岡山県倉敷市))には水分吸着下のエンタルピー緩和の実験をやってもらうと腹をくくった.彼は修士までの3年もあるのでこれくらいのことはやらないといけない.恒温水槽の試験管にいろいろな無機塩の溶液を入れて,溶液と平衡にある空気中にサンプルフィルムを置く方法をとって,一定湿度下での吸湿とエンタルピー緩和を同時に追跡した.全く金も高価な装置も要らない実験である.時間だけかける谷上研の典型的な実験である.数カ月追跡した.その結果,吸湿の進行とエンタルピー緩和の進行を関連づけて考察できる立派なデータを得ることができた.東京工大有機材料工学科住田研究室の協力を得て,誘電率の変化でもってこの一連の変化を追跡することも行った.これらの結果については論文投稿準備中である.このポリマーは完全に非晶性である.非晶性ポリマーも結構おもしろい研究対象物であると思った.

 

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