信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF テントの防水性能に関する研究

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.4 Vol.4

 緒言

 一般にテントとは,木製あるいは金属製の支柱と樹皮,獣皮,織布などの覆いからなり,解体して持ち運びのできる組立て移動式の家屋と定義できる1).
 現在,多方面で利用されているテントは,その発祥を狩猟,遊牧民のように移動生活を営み,固定した住居をもちにくい人々の天幕住居,例えば,その代表的なものとして北アメリカインディアンのティピー,中央アジアの蒙古民族のパオ,およびアラビアのベトウィン族のブラック・テントに求めることができる2)とされているが,また一方では,西洋史の教えるギリシア,ローマ時代の軍隊の将軍野営用天幕あるいはまた,イスラム教信者のメッカ巡礼用天幕にもその発祥の一端を求めることができるようにも思われる.
 ともかく,そのどちらに源を求めるにしても,いわゆるテントは雨,露,雪,日光,風などの自然現象をしのぎ,人体を保護するための機能を有する,折りたたみ式仮設居住区であるということである.
 この折りたたみ式仮設居住区としてのテント,天幕を現在でも生活の場としているのは遊牧民であろうが,ただ彼らの活躍の場はきわめて降雨量の少ない乾燥したステップ地域であって,雨の心配をする必要がほとんどないという点に特徴があるといえる.
 一方,スポーツとしての登山や野外活動で用いられるテントは,必ずしも降雨量の少ない地域で用いられているとは限らず,我国のように,相当降雨量の多い所でも利用頻度は高い.この場合のテントは軽量で小さく折りたためることとあいまって,防水性,耐水性の性能をもつことがきわめて重要な要素となる.
 もちろん,それ以外のテント,天幕,例えば野外活動用常設テント,自衛隊野営テント,集会工事用テント,またサーカスなどの天幕なども防水性,耐水性は必要不可欠の要素であろうが,ことさらに軽量である必要はないので,テント,天幕の基布に重厚な皮膜を有した完全防水布を用いることができよう.この点がスポーツとしての登山,野外活動用テントとその他のテント,天幕との大きな相違点である.
 これらのテント,天幕に関する従来の研究は,安田武氏の高所登山の繊維装備に関する一連の研究3)があるが,これは,高所登山の性格上当然のことながら,防水性よりも軽量性,保温性,居住性,強力保持などの性能に力点がおかれており,防水性が十分検討されているとはいいがたい.そしてこれ以外には全く報告がみあたらない.
 一方,テントに関する解説についてもきわめて少なく,遊牧民の天幕についての解説書4),登山用具の解説書5,6),野外活動一般の解説書7)などに散見される程度である.
 本報告は,主としてスポーツとしての登山,野外活動などで利用されているテントの消費性能,特に防水性に着目して調査,実験研究を行ったものである.
 調査は野外活動関係諸団体,登山関係諸団体を対象に,質問紙調査法のうち郵送調査法8)を用いて実施した.その調査結果に基づき,最近多用されているテント布地を数種選び試料とし,その防水性に焦点をあてて実験をおこなった.

「デサントスポーツ科学」第34巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 小島洋司, 磯井佳子
大学・機関名 武庫川女子大学

キーワード

テント防水性