信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 不整脈発生誘因としての血中遊離脂肪酸の作用機構に関する研究

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.4 Vol.4

 要旨

 異常な心臓に対する遊離脂肪酸濃度と不整脈との関係については,oliver,M.F.ら10)の急性心筋梗塞患者での観察や,Kurien,V.A.ら5)の冠動脈閉塞を施した犬での実験,さらに,Soloff,L.A.16)の各種脂肪酸の犬への静脈内注入実験など数多くなされており,遊離脂肪酸が異常心に対して直接的な機能障害を引き起こすことを示唆している.
 異常心における遊離脂肪酸の不整脈発生機序に関しては,Opie,L.H.13)の総説に詳細に記載されている.それによると,虚血心筋の細胞膜に対する遊離脂肪酸のdetergent効果による膜透過性増大の結果生じたKイオンの流出,心筋ミトコンドリアの呼吸阻害,心筋内Caイオン濃度の減少,心筋酸素消費量の増加などをその機序として考察している.
 一方,運動中あるいは運動鍛練者に不整脈が発生するという報告が近年増えており,特に異常心とは思われないヒトの運動中の突然死との関係からも遊離脂肪酸は注目されている.
 遊離脂肪酸はその構造から多岐に分類され,確かに不整脈発生誘因の1つに考えられているが,心臓に対する代謝的影響は摘出心臓などの報告により,脂肪酸の種類によって異なることが知られている2,8).
 血中遊離脂肪酸が上昇する背景には,catecholamineなどのホルモンが関与し,そのホルモン自体の心臓に対する作用も多岐にわたっている9,18).すなわち,単なる血中遊離脂肪酸の直接作用のみでは,不整脈発生の問題の解決にはならない.
 不整脈誘因に関する上述の諸説はあるが,まだ不明の点が多く,事故死発生との関連から,基礎的研究がなお一層望まれていることを背景に本研究を行った.
 実験は,基礎的研究として
 1)細胞レベルでの遊離脂肪酸の心筋に対する興奮一収縮連関の研究,
 2)ホルモンなどの影響を少なくしたモデル実験での心電図波形への血中遊離脂肪酸の影響を観察する,と共に,
 3)日常生活時に不整脈発現がある被検者を対象とした運動負荷後の血中脂肪酸と心電図所見との関係
 などを総合的に緊急目標への課題とした.

「デサントスポーツ科学」第5巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 酒井敏夫*1, 栗原敏*1, 小林啓三*2, 渡辺雅之*3
大学・機関名 *1 東京慈恵医科大学, *2 東京厚生年金看護専門学校, *3 東京学芸大学

キーワード

遊離脂肪酸不整脈運動中