信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 筋肉運動による血清リポたん白代謝改善とその機序の研究

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.5 Vol.5

 要旨

 リポたん白質代謝異常が動脈硬化性疾患と深いかかわりをもつことは周知の事実であり,また,運動は動脈硬化症に好影響をもたらすとされているが,その機序や運動によるリポたん白代謝動態の変動についての報告は少ない。我々は,高コレステロール(TC)血症,高中性脂肪(TG)血症,低HDLコレステロール(HDL-C)血症などのリポたん白代謝異常を伴うとされる肥満者を入院させ,食事療法のみによる減量の群と,食事療法と運動療法を併用した群に分け,それぞれリポたん白代謝の変動を検討した.
 食事療法単独群(男8名,女12名,肥満度190±43%)では600〜1,000kcalの低カロリーによる減量に伴い,TG,TCは有意に低下した.しかし,抗動脈硬化性因子であるHDL-Cも43±11mg/dlから36±9mg/dlに低下(p<0.001),したがって動脈硬化指数(Atherogenic lndex,AI)には変化を認めなかった.退院後の経過をみると,体重,TG,TCは一定であったが,HDL-Cは退院後早期に上昇傾向がみられ,これには退院後の運動量の増加が考えられたため,次に入院肥満者に対し食事療法に加え,エルゴメータ(50ワット,15分×3回)と歩行(約1万歩)による運動療法を併用して検討した.
 運動療法併用群(男6名,女2名,肥満度184±39%)は前記食事療法とともに,入院第3週より運動療法を開始した.運動開始後も体重,TG,TCは同様に低下したが,HDECは運動開始時の30±7mg/dlから,運動療法終了時には40±11mg/dlに有意に上昇し(p<0.01),これに伴いAIも著明に改善した.
 以上より,低カロリーによる食事療法に伴うHDLCの低下は一時的で,運動不足が大きな原因の一つであり,運動はHDL-Cを上昇させ,リポたん白代謝を改善することにより,動脈硬化に対し大いに防御的な働きをすることが明らかとなった.

「デサントスポーツ科学」第5巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 垂井清一郎, 藤岡滋典, 松沢佑次, 徳永勝人
大学・機関名 大阪大学

キーワード

リポたん白質代謝動脈硬化性疾患肥満食事療法運動療法