信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 大学中・長距離の心形態ならびに有酸素的作業能に関する継続的研究

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.6 Vol.6

 要旨

 大学および実業団の陸上競技部に所属する長距離選手12名を対象に,有酸素的作業能,胸部X線写真,ベクトル心電図,心エコー図を年1回,二年間にわたり測定した.
 心容積および左室心筋重量は二年間で有意に増加した.また,心室中隔厚,左室後壁厚にも有意な増加がみられた.一方,左室内腔,駆出量,駆出分画には著明な差はみられなかった.このことから,本研究で観察された心拡大は主に心室中隔厚,左室後壁厚の肥大によるものと考えられる.
 有酸素的作業能および競技成績では顕著な変化がなかった.また,心筋重量の変化量と最大酸素摂取量の変化量の間に相関々係がみられなかった.すなわち,競技者にみられる心拡大は有酸素的作業能の発達と必ずしも平行して進行するものではないことが示唆された.
 最大QRSベクトルの電位が有意に増加しており,左室肥大が想起される.一方,最大QRSベクトルの方向は年次前方へ向かう傾向が観察された.持久性トレーニングによる心拡大において,右室肥大も考慮する必要があると思われる.トレーニングによってもたらされる生理的適応の結果と解釈され,身体トーニングとの関係について興味がもたれている.これまでにX線写真による心陰影をはじめ,ECG,ベクトル心電図などを用いた研究が行われてきた.近年,特に心エコー図の発達により,スポーツ心臓に関する詳細な研究報告がみられるようになった.
 しかし,その多くは横断的研究であり,また縦断的研究においてもそのトレーニング期間は8〜20週間と比較的短期間のものが多い.対象も非鍛練者に関するものが多く,競技者を長期間にわたり縦断的に追跡した例はほとんどみられない.
 そこで本研究では,陸上競技中・長距離選手を対象に高校から大学へ進学,あるいは実業団へ入社して以後,競技的トレーニングが有酸素的作業能ならびに心臓に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.本報は,大学入学時(入社時)以後二年間にわたり毎年一回測定を継続した結果を報告する.

「デサントスポーツ科学」第6巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 伊藤静夫*1, 雨宮輝也*1, 山西哲郎*2, 有吉正博*3, 山地啓司*4
大学・機関名 *1 財団法人日本体育協会, *2 群馬大学, *3 東京学芸大学, *4 富山大学

キーワード

長距離選手有酸素的作業能心容積心筋重量持久性トレーニング