信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 運動時の換気応答と呼吸のentrainmentの検討

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.7 Vol.7

 まとめ

 運動時の換気冗進に対する呼吸のentrainmentの関与の有無を解明するために以下の研究を行なった.すなわち酸素摂取量一定の条件下で3種類の異なったリズム運動を行なわせ,空気呼吸及び低酸素下での呼吸のentrainmentの換気応答への影響を検討した.
 対象は,成人男女12名であり,被験者には自転車エルゴメータによる3種類の異なったペダル回転数(35,60,80rpm)で運動を行なわせた.なお運動中の低酸素実験は,progressive hypoxia法を用いた.
 結果は,以下に示すようである.
 1)運動中の酸素摂取量(l/min)は,それぞれ1.091±0.242(80rpm),1.101±0.147(60rpm)の1.106±0.137(35rpm)であり,いずれのgroupもほぼ同一の値が得られた.
 2)ペダル回転数別に空気呼吸時の呼吸数(回/min)と分時換気量(l/min)を比較すると,それぞれ24.8±7.9,25.9±7.2(80rpm),24.8±4.5,25.8±4.6(60rpm),23.4±6.7,24.7±4.0(35rpm)であり,いずれの項目もgroup間に顕著な差を認めなかった.
 3)60rpmと80rpmの運動において,空気呼吸時の呼吸数が35rpm時の呼吸数よりも多い者をentrainment groupとし,少ない者をnon-entrainment groupとした.その結果,entrainment groupは,それぞれ6名(60rpm,80rpm)であり,non-entrainment groupもそれぞれ6名(60rpm,80rpm)であった.
 4)空気呼吸時の呼吸数は,いずれの運動(60rpm,80rpm)においてもentrainment groupのほうがnon-entrainment groupよりも有意に大きな値を示した.
 5)空気呼吸時の分時換気量は,いずれの運動(60rpm,80rpm)においてもentrainment groupがnon-entrainment groupよりも大きな値を示し,特に80rpm時では両グループ間に有意差がみられた.
 6)PETCO₂とPETO₂は,いずれの運動(60rpm,80rpm)においても両グループ間に有意差は認められなかった.
 7)低酸素下での呼吸数は,いずれの運動(60rpm,80rpm)においてもentrainment groupがnon-entrainment groupよりも大きな値を示した.特に80rpm時では,両group間に有意差を認めた.
 8)低酸素下での分時換気量(%)は,いずれの運動(60rpm,80rpm)においてもentrainment groupがnon-entrainment groupよりも大きな値を示したが,両group間に有意差を認めなかった.
 以上の結果より,運動時にしばしば観察される呼吸のentrainmentは,空気呼吸及び低酸素下のいずれの状態においても換気応答に,それほど大きな影響は及ぼしていないようであった.しかしペダル回転数の多い運動では,空気呼吸時に呼吸のentrainmentによる換気応答の有意な増加が認められ,呼吸のentrainmentの運動時換気冗進への関与を全面的に否定することは困難なように思われた.

「デサントスポーツ科学」第7巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 大藪由夫, 佐藤みどり, 本田良行
大学・機関名 *1 工学院大学, *2 国際武道大学, *3 千葉大学

キーワード

呼吸のentraiment換気亢進低酸素実験