信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF シューズの底の厚さが着陸時に身体に及ぼす影響

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.7 Vol.7

 総括

 ランニングの運動パターンを,シューズの底の厚さの変化を受容器に入力する刺激として,脚筋を主とする効果器の出力から観察しようとした.ランニングは随意運動であるが意識にのぼらない感覚の処理能力に委ねられた部分があり,これを着地時の生理機能の変化としてとらえることができる.シューズの底の厚さの変化が身体に及ぼす影響をみるために,下肢筋の放電パターンの変化を指標とした.被験筋は下肢の屈曲伸展動作に積極的にはたらく大腿直筋,大腿二頭筋,前腰骨筋および緋腹筋の4筋であり通常の皮膚表面誘導法により筋電図を導出した.またこのときの膝関節角度の変化および足裏の母指球部と睡部の雛着地を同時に記録した.
 ランニング・シューズは,緩衝材を含まない外底だけのもの(S-1),および,中底および内底に十分な緩衝材を含むもの(S-2)の2種類とした-S-2型では一般のシューズに比し,硬度は同じであるが,およそ13mm大きい厚味を有していた.被検者は20歳の健康な成人男子とし,1名は中長距離を専門とするランナーで,他の1名はランニングの非鍛練者であった.
 ランニングでは一般に,着地の瞬間,大腿直筋が放電して体支持にはたらき,次いでキック力発揮のため勝腹筋の顕著な放電がみられる.シューズの底の薄いとき,非鍛練者では,鍛練者に比して,体支持にはたらく大腿直筋の筋放電が大きく,また下腿の前腰骨筋の放電量も持続的で量的にも著しく大きい.さらに着地時のキックにはたらく勝腹筋の放電も,鍛練者,非鍛練者にかかわりなく,底の薄いときに大きいが,とくに非鍛練者にこの傾向が著しかった.加えて,この着地により膝関節が屈曲する際,底の薄いシューズを着用した非鍛練者では,膝関節が急激な角度変化を生じて一たん内側に屈折し,地面反力を緩衝したのち普通の屈曲伸展動作に入るというパターンを示した.
 これらのことからランニングという随意運動の調節系を観察すると,高度に鍛練されたランナーでは,シューズの底の厚さの変化を克服する走技術を体得しているために,常にほとんど同一のランニング運動を行いうるが,一般の非鍛練者では,とくにシューズの底の薄いとき,地面反力として身体側に伝えられる衝撃力を緩和するために,体支持にはたらく筋の活動量を高めて,膝関節でそれを吸収するよう,脊髄レベルのフィードバック機構を動員して,動作パターンの円滑化をはかろうとしていることが推察された.

「デサントスポーツ科学」第7巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 小野喬, 芝山秀太郎, 田口信教, 深代千之, 深代泰子, 北川淳一
大学・機関名 鹿屋体育大学

キーワード

シューズの底生理機能ランニング・シューズ随意運動随意運動衝撃力