運動処方のための脂質代謝(Ⅱ)
【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.7 Vol.7】
要旨
ラットおよび健康な青年男子に運動を負荷し,運動時の脂質代謝の特性を量的,質的に検討し,次のような結果を得た.
1.自転車エルゴメータを用い,健康な青年男子に心拍数レベルで130拍/分となる運動を1時間負荷した.血清RFAが有意に増加し,特にオレイン酸(C₁₈₌₁)が増加した.しかし,血清TG,PL,CEには変化がなく,それぞれの脂肪酸組成にも変化がなかった.
2.ラットに反復強制遊泳を負荷し,次のような結果を得た.
1) 遊泳時の血清FFAの動員は二相性で,前者は後者に比べ長く,大きかった.これらの動員相はすべてWAI-TGのlipolysisに依存していた.不飽和脂肪酸(C₁₈₌₁,C₁₈₌₂)は初期より増加し,これらの増加は遊泳終了時まで続いた.
2) 血清TGおよびCHEの有意な低下は遊泳時の血清FFA低下時に出現した.しかし,これらの脂肪酸組成には変化はなかった.
3) 心筋および骨格筋のTGは初期低下を示し,血清FFAがピークまで動員され,安静値に'低下するまで維持されていた.しかし,血清 FFAの後期動員相ではこれらのTGは再び低下 した.しかしながら,肝臓TGは血清TGの著 しい低下にもかかわらず,逆にオレイン酸組成の 増加とともに増加した.
4)PEやPCの組織リン脂質は遊泳初期に著 しく低下し,反動的回復を示した.しかし,遊泳終了時にはこれらの脂質は低下した.これらの脂質の脂肪酸組成の変動はこれらの脂質の低下時に出現し,C₁₈とC₂₀₌₄との間に桔抗的関係が出現した.心筋,骨格筋および肝臓のCL量は遊泳時に増加した.しかし,遊泳終了時ではこれらの量はC₁₈₌₂組成の増加に伴って低下した.特に骨格筋CLは著しく,安静値以下となった.
これらの結果から,脂質代謝における運動量の違いは遊離脂肪酸動員特性に出現した.それぞれの特性段階において,各運動量がそれぞれ,脂質代謝,リン脂質量,リン脂質の脂肪酸組成へ影響を与え,運動処方に対する至適運動量の意義が明らかとなった.
「デサントスポーツ科学」第7巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
ラットおよび健康な青年男子に運動を負荷し,運動時の脂質代謝の特性を量的,質的に検討し,次のような結果を得た.
1.自転車エルゴメータを用い,健康な青年男子に心拍数レベルで130拍/分となる運動を1時間負荷した.血清RFAが有意に増加し,特にオレイン酸(C₁₈₌₁)が増加した.しかし,血清TG,PL,CEには変化がなく,それぞれの脂肪酸組成にも変化がなかった.
2.ラットに反復強制遊泳を負荷し,次のような結果を得た.
1) 遊泳時の血清FFAの動員は二相性で,前者は後者に比べ長く,大きかった.これらの動員相はすべてWAI-TGのlipolysisに依存していた.不飽和脂肪酸(C₁₈₌₁,C₁₈₌₂)は初期より増加し,これらの増加は遊泳終了時まで続いた.
2) 血清TGおよびCHEの有意な低下は遊泳時の血清FFA低下時に出現した.しかし,これらの脂肪酸組成には変化はなかった.
3) 心筋および骨格筋のTGは初期低下を示し,血清FFAがピークまで動員され,安静値に'低下するまで維持されていた.しかし,血清 FFAの後期動員相ではこれらのTGは再び低下 した.しかしながら,肝臓TGは血清TGの著 しい低下にもかかわらず,逆にオレイン酸組成の 増加とともに増加した.
4)PEやPCの組織リン脂質は遊泳初期に著 しく低下し,反動的回復を示した.しかし,遊泳終了時にはこれらの脂質は低下した.これらの脂質の脂肪酸組成の変動はこれらの脂質の低下時に出現し,C₁₈とC₂₀₌₄との間に桔抗的関係が出現した.心筋,骨格筋および肝臓のCL量は遊泳時に増加した.しかし,遊泳終了時ではこれらの量はC₁₈₌₂組成の増加に伴って低下した.特に骨格筋CLは著しく,安静値以下となった.
これらの結果から,脂質代謝における運動量の違いは遊離脂肪酸動員特性に出現した.それぞれの特性段階において,各運動量がそれぞれ,脂質代謝,リン脂質量,リン脂質の脂肪酸組成へ影響を与え,運動処方に対する至適運動量の意義が明らかとなった.
「デサントスポーツ科学」第7巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 | 岩垣丞恒*1, 風見昌利*1, 渡辺雅之*2, 小林啓三*3 |
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大学・機関名 | *1 東海大学, *2 東京学芸大学, *3 東京慈恵会医科大学 |
キーワード