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Research Seeds

PDF 低圧環境下の流水プールにおける水泳トレーニング

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.8 Vol.8

 総括

 水泳選手がより大きな競技力を発揮するためには,運動に要するエネルギー総量を最大限に発達させる必要があり,それには酸素摂取能力および酸素運搬能力を高めるトレーニング法の開発が望まれる.
 本研究では,これを水泳運動時の生理的限界の発達ととらえて,大気圧をsea levelから標高3,000mないし3,500m相当の低圧環境に変化させて,最大酸素摂取水準の動向と酸素運搬系の変化を検討した.
 被検者は18〜21歳の健康な男女大学生15人とした.低圧環境暴露は1日1回週6日を原則とし,午後の3時間をそれにあて,はじめの60分で低圧環境に適応させ,続く120分間に流水プールにおける水泳トレーニングを課した.トレーニングは10分泳の反復とし,負荷強度はRPE値にして16〜18に相当するsubmaximal loadとし,流速により調節した.
 低圧環境下の流水プールにおいて4カ月の水泳トレーニングを課し,その前後で生理機能の測定値を比較した.安静時の赤血球数,ヘモグロビン量,ヘマトクリット値に増加を認めることはできなかった.同じく静脈血pHおよびPO₂にも有意の変化は認められなかった.Treadmill漸増負荷法により観察した有酸素性作業能力においても,トレーニングの影響を見出すにはいたらなかった.
 しかし低圧環境下のトレーニング負荷としての水泳運動が,酸素運挫系に与える影響を血液ガスの動態により観察したところ,静脈血においては負荷の前後で血液pHの低下,酸素分圧の減少と二酸化炭素分圧の増加をもたらし,酸素消費の増大とそれにともなう代謝産物の増加を示唆する結果を示した.
 一方動脈血においては,負荷の前後で血液pHの低下はみられたものの,酸素分圧の増加と二酸化炭素分圧の減少をもたらし,酸素供給を主とする酸素運搬系の機能的活性の高進していることが示唆された.しかし運動時の心拍数増加は小幅に抑制される傾向がみられた.また,低圧環境下の連続10分泳,または断続10分泳という運動時心拍数の推移にも,4カ月のトレーニングを経て,心拍数増加が著しく小幅に抑制される傾向がみられ,少ない酸素摂取水準で運動負荷を遂行できるような機転の生じたことが推察された.

「デサントスポーツ科学」第8巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 田口信教, 芝山秀太郎, 深代千之, 田畑泉, 深代泰子
大学・機関名 鹿屋体育大学

キーワード

低圧環境水泳トレーニング有酸素性作業能力血液ガス