信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF スポーツ心にみられる運動誘発性不整脈の発生要因の解析

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.9 Vol.9

 緒言

 運動時および運動直後の突然死例がしばしば報告され,社会的に大きな問題となっている1,2).一般に激しいトレーニングを行っている競技者(アスリート)は,胸部X線上で非競技者に比し心陰影が大きく,心電図上でもさまざまな心電図異常が認められる.トレーニングによる圧負荷および量負荷等により心臓は拡張ないし肥大し,心拍は徐脈になり,いわゆるスポーツ心と呼ばれる状態がアスリートではしばしばみられる.
 このようなスポーツ心の成因には,運動による血中力テコールアミンの増加をはじめとした体液性要因が考えられている3).さらに,組織酸素需要が高まると,さまざまな調律異常が出現しやすくなる.心室起源の頻拍性不整脈は血行動態に大きく影響するため,運動中および運動直後の急死と関連して重要視される結果となる.一般に,致死性不整脈(心室頻拍・心室細動等)が発生すれば,急死の過程となりうることは,臨床でも運動負荷試験時の事故例や,24時間心電図モニター施行中の死亡例などからも裏付けられている4).
 急性心不全が原因と考えられる突然死例の多くは,心筋症をはじめとする基礎心疾患が存在することが病理学的に指摘されている5). 明らかな基礎心疾患を有さないアスリートのHolter心電図や運動負荷試験でも,運動誘発性の心室期外収縮,上室性期外収縮等の発生がしばしば見られることがあり,このような調律異常は,自律神経系の関与,ことに血中力テコールアミン濃度変化と関係が深いと考えられているが,その機序は明らかでない. 
 一方,頻拍や高濃度カテコールアミンは,細胞内Ca²⁺濃度増加をもたらすことが最近,明らかになった.心筋の収縮一弛緩を制御している細胞内Ca²⁺濃度の異常増加は,心筋細胞膜に異常興奮を発生させ不整脈発生の一要因となり得る可能性が指摘されている6,17). 
 そこで基礎的研究を背景として,頻度依存性不整脈の発生要因を考察し,基礎心疾患を認めない心室期外収縮をもつ症例の心拍依存性パターンの傾向を分析し,アスリートおよび健常人の急死の原因を検討した.

「デサントスポーツ科学」第9巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 岡崎修*1, 橋本通*1, 春見建一*1, 小西真人*2, 栗原敏*2
大学・機関名 *1 昭和大学藤が丘病院, *2 東京慈恵会医科大学

キーワード

突然死血中力テコールアミン細胞内Ca²⁺濃度心室期外収縮虚血性心疾患