信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF LTとOBLAはスピードスケートの競技力向上に貢献するか?

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.11 Vol.11

 スピードスケートの惰力滑走時(接氷期の約80%)12)には,股関節および膝関節の伸筋群にその最大筋出力(MVC)の25-35%の等尺性筋収縮を強いることになる8).このような筋力発揮は,筋への血流の一部あるいはすべてを阻止することになり7),代謝は無酸素性機構への依存を余儀なくされ,筋には乳酸が蓄積し始まると考えられる.事実,同一相対強度(%VO₂max)では,自転車駆動よりもスピードスケート滑走の方が高い血中乳酸濃度(以下,LA濃度)を示すことが報告されている8).そして,スピードスケートの競技成績が,無酸素性機構の発現する時点の出力パワーと関係することも示唆されている14).
 このようなエネルギー代謝の変換点あるいは移行点を示すと考えられる代表的な指標としてLA濃度の上昇開始時点であるLactate Thresh-old(LT)16)とLA濃度の4mmol・l⁻¹時点であるOnset of Blood Lactate Accumulation(OBLA)30)といった最大下作業時のLA濃度の動態をもとにした指標が考察され,パフォーマンスの予測28, 33,35),トレーニング状態の評価1, 21)および持久性トレーニングの強度指標として用いられている17, 31).
 これまでの報告によれば,LTやOBLAの絶対値および相対値は,ともに持久的競技のスポーツ選手が筋力・パワー的種目の選手に比較して高い値を示す2, 13).また,同一種目においても,競技時間が長い選手ほど,および競技力レベルの高い一流選手ほど高いLTおよびOBLA値を示すことが知られている9, 20, 30, 33, 35).Schmid et all 29)によれば,自転車漸増負荷駆動で測定したスピードスケート選手のOBLA値は,長距離選手が短距離選手よりも有意に高い値を示すものの,他のスポーツ種目の選手との比較では,スピードスケート選手のそれは中距離的スポーツ種目と同様の特徴を示すという.
 しかしながら,測定時の運動様式としてスピードスケート滑走を用い,その運動中のLA濃度の動態からスピードスケート選手のLTおよびOBLAとを求め競技成績との関連について検討した報告はみられない.
 そこで,本研究では,スピードスケート滑走中のLA濃度からLTとOBLAとを測定し,短距離選手(Sprinter ; SP)と長距離選手(All-arounder ; AL)とで比較するとともに,競技成績との相関関係からスピードスケートの競技力向上に及ぼす影響について検討することを目的とする.

「デサントスポーツ科学」第11巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 根本勇*1, 土谷一晃*1, 岩岡研典*2, 田畑泉*3, 田中邦雄*4, 入澤孝一*5
大学・機関名 *1 東邦大学, *2 ヒューマンパフォーマンス・ラボラトリー, *3 鹿屋体育大学, *4 日本体育大学, *5 群馬県体育協会

キーワード

スピードスケート等尺性筋収縮無酸素性機構血中乳酸濃度Onset of Blood Lactate Accumulation(OBLA)