信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF モータースポーツにおける特殊環境条件の人体生理に及ぼす影響

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.11 Vol.11

 モータースポーツの競技特性を明らかにするために,各種の体力測定,レース中の心機能,レース中のドライバーが受ける負荷などについて測定を実施した.対象はF-3,F-3000,グループC,グループAなどのレーシングドライバー20名である.身体的プロフィルについては,アイソキネティックな筋力測定と関節運動スピードを中心に各種の運動能力検査を行なった.その結果は,反応時間が優れている以外は,特殊性は認あられなかった.しかし,レーシングドライバーとして必要と思われる筋肉の能力が不足していると考えられる例が多く,筋力トレーニングが必要であるとの結論に達した.全身持久力については,トレッドミルによる運動試験を実施し最大酸素摂取量を測定した.その結果,全身持久力は特に優れていなかった.レースによっては特に必要ない場合もあるが,クラスが上になるほど競技時間,肉体的負荷ともどんどん増していくためトレーニングによって能力を高める必要がある.現状ではほとんどトレーニングを行なっていないドライバーが多く,全身持久力は他のスポーツ選手に比較して劣っているということができる.
 レース中の心機能を調べるため,ホルター心電計によってレース中の心電図を記録した.心電図の波形の異常,不整脈などは見られなかったが,心拍数はレース開始と同時に非常な高値となり,レース中ほとんど低下することがなかった.これは,主に精神的なストレスによるものと考えられ,マラソンなどのような筋肉運動によって心拍数が増加するものとは異なった原因である.
 レース中のドライバーが受ける物理的な負荷は,高速走行によって生ずる加速度の変化が最も重要であるが,その他では温度の上昇,騒音などがある.加速度計による測定では,特に問題となる横方向への加速度は,グループCレーシングカーにおいて約1.5Gを記録した.F-1やF-3000ではさらに大きな加速度がかかるといわれており,ドライバーはレース終了までそれに耐えなければならない.温度はレーシングカーの種類によって異なるが,最も暑いといわれるグループCレーシングカーでは室内温度が60℃にも達するといわれ,高温下の発汗が非常に多いため脱水症状になりやすい.騒音については,グループCレーシングカーにおいて測定したところ142dbと非常に高い値を示した.

「デサントスポーツ科学」第11巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 大畠襄,白旗敏克,河野照茂,久富沖,遠藤陽一,小野寺昇,佐藤美弥子
大学・機関名 東京慈恵会医科大学

キーワード

モータースポーツ心機能筋力測定関節運動スピード