信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 発育期にある野球投手の上肢関節障害をいかに防ぐか

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.12 Vol.12

 児童・生徒という若年期の投手には肘関節をはじめとして上肢の関節障害が多いことが知られており,それに関連してリトルリーグ投手の投球動作の解析が行われている6,10).またこの時期の野球投手においては年齢によって投球回数が制限されたり変化球の投球が禁止されて,障害の防止に効果があったという報告もある19).
 直球は野球の投手の投球において最も重要な球種であり,またカーブは投手が直球に続いて覚えなければならない球種であるという8).これまでこの二つの球種に関する比較を行った研究としては,投球されたボールの飛行軌跡に関するものの他に,投球時の筋活動に関するもの14),リリース時の指の離れる順序に関するもの15),上肢の動きに関するもの4),などがあげられる.
 このうち,Sisto, DJ. Et al. 14)は大学生野球投手の直球とカーブの投球時の前腕の筋群の筋電図記録を比較して,上腕骨の内側上穎が起始である前腕屈筋群の放電様相は両球種で大差なく,これまで主張されていたほどカーブの投球は発育期の野球投手の肘関節障害に対して有害ではない可能性を示唆している.しかしながら,投球中の上肢関節にどのような力が加わっているのか,あるいは変化球の投球フォームが直球のフォームに比べてはたして上肢の障害に及ぼす影響が大きいのか等について定量的な研究は少なく,未解明なことが数多く残されている.
 投動作のようなひねりを含む動作の分析には,三次元的な動作解析を行う必要性が強い.高速度映画から三次元的な映像解析法を用いて投手の投球動作の解析を試みた研究もいくつかある.Vaughn16)は高校生および大学生投手の直球投球動作を紺象として,上腕部の回旋および肘関節の屈曲・伸展の角速度の変化を求めているが,特にカーブを始めとする変化球の投球の分析においては前腕部や手部の動きの解析が重要であると指摘している.Elliott, et al. 4)はやはり三次元映画分析法を用いてカーブと直球の投球動作を比較検討している.しかしながらその関節角度の定義は不明確であり,前腕部と手部の運動については肉眼に基づく主観的な観察にとどまっている.Pappas, et al. 12)もアメリカ大リーグの投手を対象として,肩の内旋・外旋,肘の屈曲・伸展についてそのリリース前0.08秒からリリース後0.05秒の関節角度の変化を報告しているが,同じく前腕部の回内・回外と手部の屈曲・伸展に関する記述は肉眼の観察によるものである.このように,投手の投球動作について前腕部や手部の運動までも定量的に求めた研究は少なく,また直球とカーブの投球動作を比較検討したものもきわめて少ない.
 本研究の目的は,三次元映像分析法を用いて直球とカーブの投球における上肢関節運動を定量的に比較検討することにより,若年期の野球投手の上肢の障害を引きおこす要因について基礎的な知見を得ることである.


「デサントスポーツ科学」第12巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 桜井伸二*1, 池上康男*2, 山賀寛*3
大学・機関名 *1 名古屋大学, *2 財団法人スポーツ医・科学研究所

キーワード

野球肘関節障害投球動作三次元映画分析法