信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF ウォーミング・アップによる体温上昇最大酸素摂取量にいかなる影響を及ぼすか

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.15 Vol.15

 生体は摂取した栄養素や生体内に蓄積しているエネルギー源を酸化過程に供給することによって,構成細胞,組織が直接利用可能な化学的エネルギーに,遊離可能なリン酸化合物(ATP)を得ている.安静状態睡眠状態のようなエネルギー需要が低い状態にあっても,このエネルギー産生過程は働き続けている.これは,ATPの分解から得られるエネルギーによって,熱力学的な平衡状態に生体が陥ることを防いでいる,すなわち非平衡状態を保っていることを意味するものである.
 体温も生体外部環境と非平衡状態にある生命現象の一つである.この体温をつくり出す熱は,ATP合成・分解過程で発生するものである.ATP分解によって発生するエネルギーは,種々の細胞の仕事に用いられるが,エネルギー効率が1ではないため,熱へと変換されることになる.この熱が,われわれの体温をつくり出している.生体での一定体温は,上記の熱産生による体温と生体外部温度との温度較差にともなう消極的な熱の散逸で保たれているのではなく,体温調節機構による積極的な調節に裏付けられている.産熱機構と放熱機構とがちょうど天びんの両端にあり,それぞれの機構の促進と抑制が行われることによって一定体温が保たれている.
 生体が仕事(運動)を行うことによって,エネルギー要求量は仕事量に比例して飛躍的に増大する.したがって,エネルギー需要増大に比例して熱の産生も増大し,その結果体温の上昇をもたらす.高体温は低体温に比べ,生存の可能性からみた体温の上限が狭い範囲に限定されていると考えられている20).運動時には,より積極的な放熱機構が活性化し,体温の上昇を防ぐ必要性が生じてくる.放熱機構には呼吸・循環器系の機能高進が大きな役割を演じている.
 競技選手は競技開始前に,運動準備状態を作るためにウォーミング・アップを日常的に取り入れている.ウォーミング・アップの目的は,種々意見の分かれるところであるが,結果として,安静状態と比較して高体温状態がつくられることに対する異論はないものと考えられる.この高体温に対する放熱機構の活性化が,呼吸・循環器系において行われることは,競技に対する呼吸・循環器系機能の応答にいかなる影響を及ぼすか興味あるところである.
 本研究は3つの観点から,体温上昇と呼吸循環器系機能の検討を試みた.
 1)運動時に顔面を風で冷却し,顔面静脈一海面静脈洞系による脳内流入動脈血の冷却効果を期待して,運動時の体温上昇と鼓膜温度からみた脳温と呼吸循環器系機能の関係を検討する.
 2)規定されたウォーミング・アップを被験者に負荷し,体温上昇と呼吸循環器系の機能の関係を検討する.
 3)実験室内で被験者の経験的な判断に基づいた強度でのウォーミング・アップを負荷し,2)との比較を行うとともに,実際のフィールドにおけるウォーミング・アップとの体温変化の比較を行う.

「デサントスポーツ科学」第15巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 森本茂, 高橋静, 東香, 加茂美冬
大学・機関名 横浜国立大学

キーワード

身体整理機構ウォーミングアップ体温上昇呼吸器官系体温