信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 転倒のバイオメカニクスとそれを制御する脳神経機構

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.21 Vol.21

 転倒は外乱によって引き起こされる場合と自分自身の姿勢制御の誤作動による場合がある.後者の神経機構を明らかにするために,シーソー,ビーム上で閉眼起立するときの姿勢制御の破綻について動きと筋活動より解析した.転倒の過程は3つの時期に区分された.第1期は起立姿勢を保っている期間で起立維持期と呼んだ.シーソー上では主として足関節の動きによる制御(Ankle Strategy)によって,また,ビーム上では腰部の動きによる制御(Hip Strategy)で起立姿勢が維持されていた.第2期は転倒をかろうじて踏み止まっている時期で転倒前期と呼んだ.シーソー,ビームいずれの場合も,前方への転倒に抗している姿勢は前傾姿勢で体幹腰部の前屈と足関節の底屈,後方転倒を踏み止まる姿勢は逆に後傾姿勢で腰部,足関節の背屈であった.前傾姿勢は下腿三頭筋の,後傾姿勢は前脛骨筋の強い興奮が見られた.第3期は,耐え切れず一歩踏み出す時期で防御的踏み出し期と呼んだ.一歩踏み出しは前後だいたい同じ頻度で起こった.今回の被験者5名は全員右利きであったが,踏み出し脚は圧倒的に左足であった.前方踏み出しの開始時には,支持脚の大腿二頭筋と遊脚の大腿四頭筋のバーストが見られ,後方踏み出しでは逆に支持脚の大腿四頭筋と遊脚の大腿二頭筋のバーストが見られた.その後の遊脚筋活動は踏み出す方向に依存せず,ともに,前脛骨筋の短持続バーストとそれに続く交替性の下腿三頭筋バーストが起こり,着地した.中枢は転倒方向に応じて歩行中枢パタン発生器の出力を適応的に変えていると示唆された.

「デサントスポーツ科学」第21巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 山口峻司,本田博之,伊豆田義人,加藤義彦,増田健,王悦紅
大学・機関名 山形大学

キーワード

姿勢制御閉眼起立動き筋活動