信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 暑熱障害発症リスクに及ぼす温熱性発汗の個人差の影響

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.28 Vol.28

 著者らは,屋内外における熱中症等の暑熱障害を予防することを目的として,平均皮膚温・体内温予測モデル(以下,予測モデル)を提案している.本研究は,発汗特性の個人差に着目して,その特性を分析して予測モデルに適用することにより,任意の環境における平均皮膚温・体内温の発現を確率分布の形で表しリスク評価に寄与することを課題としている.
 本研究では,屋内外において90〜120分間の自転車エルゴメーター運動(代謝量3.8met,着衣量0.4clo)を行わせる被験者実験を実施した.体重減少から被験者の発汗量を計測して,温熱性の発汗特性を表す係数(個人差係数と仮称)kadpを算出した.本研究に参加した被験者の発汗特性は,予測モデルにおける平均的発汗能(kadp=1)と比較してkadp=0.85(±0.19SD)であり,おおむね平均的な被験者とみなすことができる.実験の結果,個人差係数kadpは0.4〜1.2の範囲で分布し,個人差のみならず,被験者自身の発汗特性も日により大きく変動することが示された.暑熱障害発症リスクを判定する体温については今後十分な検討を要するが,本研究では平均皮膚温36℃を適用した.この平均皮膚温は,この温度を超える辺りで体内温度が皮膚温とほぼ同じ割合で上昇し始める臨界温度であり,『非常に暑い』と感じる状態である.予測モデルを用いて,平均皮膚温が36℃となる気温と湿度の組合せを個人差係数kadpの変動幅に対応させて算定し,湿り空気線図上に図示した.その結果,例えば相対湿度50%の場合,平均皮膚温が36℃に達する気温は平均的な人(kadp=1.0)が32.5℃であるのに対して,kadp=0.4の人は5℃近くも低温の28℃であることが示された.このことから,暑熱環境の障害発生リスク評価は,体温という生理学的な観点からとその発生確率の両面から評価する必要性のあることが示された.

「デサントスポーツ科学」第28巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 桒原浩平,窪田英樹,濱田靖弘,中村真人
大学・機関名 北海道大学

キーワード

熱中症皮膚温・体内温発汗特性リスク評価