信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 筋音図を用いたフィードバック制御機構に基づくバランス能力の評価法の開発

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.28 Vol.28

 床反力計を用いた従来のバランス能力検査法の神経生理学的意味合いは薄い.立位バランスは,身体重心速度の検知とそれに応じた適切な足関節底屈筋群の活動を基にしたフィードバック制御機構により調節されている.本研究は,筋音図法によりフィードバック制御機構によるバランス能力の検査法を開発することを目的とした.静止立位60秒間に,身体重心動揺,内側腓腹筋とヒラメ筋の筋電図,および筋音図信号を取得した.筋音図信号が身体重心動揺および筋電図の変動を反映するか否かを定量評価するために,変数間のコヒーレンスを算出した.その結果,筋音図と身体動揺との間には2Hz未満にコヒーレンスが有意水準を上回った.また,筋音図と内側腓腹筋およびヒラメ筋の筋電図系列との間には,それぞれ2-4Hzおよび8-12Hzにコヒーレンスが有意であった.筋音図の低周波成分と身体重心および筋音図の低周波成分の一階時間微分系列と身体重心速度との間には強い正の相関が観察された.この結果より,筋音図の非定常な低周波成分は身体重心を反映することが明らかとなった.クロススペクトル解析の結果から,4Hz未満の筋音図系列と1Hz未満の筋音図系列の偏差は内側腓腹筋の筋活動を反映する.したがって,筋音図の低周波成分の一階時間微分系列と4Hz未満と1Hz未満の筋音図信号の偏差系列は,身体重心速度と内側腓腹筋の筋活動をそれぞれ表す.前者と後者で相互相関関数の正のピーク値を20名の被検者ごとに求めたところ,有意な正の相関が認められた.この結果は,筋音図法によりフィードバック制御機構によるバランス能力を評価できることを意味している.さらに,この評価値を用い高齢者と若齢者のバランス能力の差違を抽出することができた.筋音図の適切な時系列解析により,簡便かつ神経生理学的意味合いを含んだフィードバック制御機構によるバランス能力を正確に評価できることが明らかになった.

「デサントスポーツ科学」第28巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 神﨑素樹*1,政二慶*2,福永哲夫*3
大学・機関名 *1 東京大学大学院,*2 トロント大学,*3 早稲田大学

キーワード

立位バランス身体重心速度足関節底屈筋群