信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 運動が作業筋皮膚表面乳酸濃度に及ぼす影響

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.30 Vol.30

 これまでに血中乳酸濃度は解糖のみならず15),無酸素的作業能力を示す指標であることが報告されている10).我々は非鍛錬者と長距離選手において,血中乳酸濃度の最高値は400m全力疾走でのランニングスピードと有意な相関関係が認められること,および短距離選手において,無酸素的運動後の血中乳酸濃度の最高値は非鍛錬者と長距離選手の値に比べ有意に高いことを報告してきた16).乳酸測定のために血液を採取することは血液の量的損失,精神的なストレス,苦痛,感染症などの危険性を伴うなどの問題が生じる可能性がある.皮膚表面乳酸濃度の測定は血中乳酸や他の非侵襲的サンプリング方法に比べ多くの利点がある.唾液や汗の採取は非侵襲であるが,皮膚表面乳酸の採取は唾液や汗採取に比較し容易である.さらに負荷漸増法での運動中の汗中乳酸濃度は血中乳酸濃度と相関関係は認められないと報告されている1, 11).
 乳酸はタイプII線維によって生成され17,18),タイプI筋線維で酸化・消去される17,18).あるいは肝臓においてはグルコースに合成され14),また骨格筋において,乳酸からグリコーゲンが生成される3, 4).乳酸の取り込みと排出はモノカルボン酸トランスポーターが重要な役割を担っている.モノカルボン酸トランスポーター-1(MCT-1)は赤筋線維において乳酸の取り込み量と高い相関関係を持ち12, 13, 20),一方モノカルボン酸トランスポーター-4(MCT-4)は乳酸排出に関係している7,20).ヒフク筋白筋部位である速筋線維ではMCT-4は多いがMCT-1は少ない7, 12).ヒラメ筋のような遅筋線維はMCT-1が多く,MCT-4が少ない7, 12).MCT-1は血液中から乳酸の取り込みに重要な役割を果たしている6,7).さらにBonenら8)はラットの皮膚にMCT-1,-2,-4,-7が存在することを認めている.Bonenら8)のこの結果は皮膚においても乳酸の取り込みと排出がトランスポーターを介して行われていることが推察される.しかし,運動が皮膚表面乳酸濃度に及ぼす影響は報告されていない.本研究は漸増負荷運動が作業筋皮膚表面乳酸濃度に及ぼす影響を明らかにすることである.

「デサントスポーツ科学」第30巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 大桑哲男*1,伊藤宏*1,山崎良比古*1,蘇恩和*1,津田孝雄*2
大学・機関名 *1 名古屋工業大学大学院,*2 ピコデバイス

キーワード

乳酸皮膚表面運動作業筋