信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 骨格筋損傷指標としての皮膚ガス中一酸化窒素の有用性

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.31 Vol.31

 本研究では,皮膚から放出される一酸化窒素(Nitric Oxide: NO)濃度が運動に伴う筋の損傷の指標となり得るか否かを確かめようとした.被験者は,少なくとも6ヶ月以内に大腿四頭筋の筋損傷を伴う運動を行っていない健康な男子大学生7人(22.1±0.3歳; 平均±標準誤差)とした.被験者は,大腿四頭筋の伸張性収縮を伴う膝伸展,屈曲運動を15 repetition maximum(RM),8セット行い,運動前,運動終了1,2,3,7日後に大腿直筋の筋腹皮膚表面上から皮膚ガスを採集し,オゾン化学発光法によってNO濃度を測定した.また,大腿四頭筋の伸展における筋力(1RM),大腿周径囲,大腿直筋の筋腹における筋痛指標(visual analog scale:VAS),さらに血中の白血球数と血清クレアチンキナーゼ(creatine kinase:CK)活性についても測定した.
 皮膚ガス中NO濃度は,運動終了2日後に有意(p<0.01)に上昇し,7日後には回復傾向が認められた.また,各被験者の運動後の皮膚ガス中NO濃度ピーク値は運動前の値に比べ約1.4倍と有意(p<0.01)に高かった.大腿周径囲は運動前後で有意な変化が認められなかったが,筋力は運動終了1日から3日後まで有意(p<0.05)に低下,一方,VASは有意(p<0.05)に増大したが,筋力,VASともに7日後には運動前の値に回復する傾向が認められた.白血球数については,総白血球数,好中球が運動後7日目に有意(p<0.01)に高く,好塩基球が運動後2日目以降有意(p<0.05またはp<0.01)に増大し,7日後も同様に有意(p<0.01)に高かった.一方,好酸球,単球,リンパ球については運動前後で有意な変化は認められなかった.血清CK活性は,運動終了後に上昇し,3日後には運動前の値に比べて有意(p<0.01)に高かったが7日後には回復する傾向が認められた.
 以上,本研究で見られた筋損傷に伴う皮膚ガス中NO濃度の増大は,筋力低下や痛みを反映する可能性が示唆された.

「デサントスポーツ科学」第31巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 伊藤宏*1,山﨑良比古*1,津田孝雄*2
大学・機関名 *1 名古屋工業大学大学院,*2 名古屋工業大学

キーワード

一酸化窒素伸張性収縮膝伸展・屈曲運動皮膚ガス筋痛指標血清クレアチンキナーゼ(creatine kinase:CK)活性