信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 運動疲労時における神経基盤の系統的検討

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.33 Vol.33

 要旨

 身体的疲労とは,身体的な負荷によって生じる自発的に筋肉を動かす能力の低下減少・状態のことである.身体的疲労時の視覚のフィードバックを介した運動野への抑制システムの存在が,われわれの行動学的研究から示唆されていたが,脳科学的な証拠は得られていなかった.また,身体的疲労時の運動野の抑制システムに加えて,運動野からの出力をサポートする促進システムの脳科学的なメカニズムについても,ほとんど分かっていなかった.これら,身体的疲労時にパフォーマンスを制御するメカニズムについて,脳磁図装置を用いて系統的に検討した.被験者は,11名の健常成人から構成され,無作為割付(ラマチャンドランのミラーボックスを使用するかしないかの)2試験区クロスオーバーデザインで試験を実施した.身体的疲労負荷課題として,利き手の反復的な最大把握を行わせた.身体的疲労負荷課題の前後に,利き手の最大把握の想起を実施させ,この時の脳活動を,脳磁図装置を用いて評価した.ベータ帯域の事象関連脱同期の程度は,ミラーボックスなしで身体的疲労を誘発させた課題の後,反対側の感覚運動野で低下したものの,ミラーボックスを使用して疲労していないと錯覚させた時は,反対側の感覚運動野の事象関連脱同期の程度は低下しなかった.また,前頭前野と同側感覚運動野の事象関連脱同期の程度は,疲労負荷後,上昇した.以上の結果は,脳における抑制システムの存在を脳科学的に証明するものであり,それは,視覚のフィードバックシステムを介したものであることを示した.加えて,同側感覚運動野および前頭前野は,疲労した状況で運動出力をサポートする促進システムに関連する脳部位であることも明らかになった.

「デサントスポーツ科学」第33巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 田中雅彰
大学・機関名 大阪市立大学大学院

キーワード

身体的疲労運動野抑制システム脳磁図装置事象関連脱同期感覚運動野